【千星 那由多】
その日はあまり眠れなかった。
朝の光がカーテンの隙間から射して目に痛い。
こんなに巽のことで悩んだのはいつぶりだ?小学校の時にレースゲームしてて喧嘩した時以来か?
しかも今回の件は昔みたいに簡単に仲直りできるレベルの喧嘩じゃない気がする。
多分あいつは俺が(裏)生徒会を辞めなければ俺のことを許してくれないだろう。
話し合っても無理なことは昨日の状況を見ればわかることだ。
「はーどうしたもんか…」
その日もいつも通り日当瀬が迎えに来た。
なるべく疲れた顔を見せないでおこうと、あまり顔を見ないように会話をしながら学校への道程を歩く。
このことはみんなに伝えた方がいいんだろうか?
でもそうすれば巽はきっと(裏)生徒会に関しての記憶をイデアに消されてしまう。
それは…なんかイヤだ。
エゴかもしれないが、やっぱり親友だ。
どんな形であれ傷つけてあげたくない。
…もうすでに俺が傷つけてんだけどな。
悶々としていると、俺の様子を変に思ったのか日当瀬が心配そうに声をかけてきたが、やっぱり昨日のことは黙っておこうと「大丈夫」と笑ってごまかした。
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【天夜 巽】
今日、俺は学校を休んだ。
また、那由多が日当瀬と登校してくるのを見るのが嫌だったからだ。
だからと言って引きこもっているわけにも行かない。
いつも通りの制服を着て、いつも通り登校を済ませる。
しかし、向かう先は教室ではなく多目的広場の裏だった。
そこでは数名の不良が屯していた、俺はその中心核の人物の後ろに立ち声を掛ける。
「こんにちは。あなたが丸田勇さんですか?」
「いかにも!!俺が丸田勇だが」
日に焼けた傷んでいそうな短い金髪は嫌でも目につく。
がたいのいい男は此方を振り返り、ニィ…ときれいに並んでいる白い歯で笑った。
ラグビー部に所属して焼けた黒い肌が余計それを目立たせる。
「自分も反対勢力に入りたいんです。入れてもらえますか?」
「ほぅ?またなぜ?」
「それは言えませんが、構成員の一人の情報を知っています。
それを提供するかわりに自分をあなた達の仲間にして下さい。
勿論、副会長の三木柚子由ではありません。」
「…いい目だ…来る者は拒まん!入隊を許可する!!
して、構成員の情報とは」
丸田の部下だろうか、他のチンピラも此方をじっと見ている。
俺は冷めた表情のまま丸田を見据えた。
日当瀬晴生、彼の事を伝えてもよかったんだが、実のところ、彼をつけても尻尾は出なかった。
那由多と一緒に居るときだってうまく罷れてしまい、実習棟に入るところは目撃できていない。
この名前を言ってしまうと俺はもう戻る事ができない。
丸田を真っ直ぐに見つめるが自然と瞳孔は逡巡に動く。
しっかりしろ俺!!
昨日決めただろ。
俺は那由多を正しい道に戻さなければならない。
その為にはなんだってする。そう決めたはずだ。
更に表情を無くした俺の口から冷たい事実が落ちる。
「1―E、千星那由多。彼が(裏)生徒会の構成員です。」
俺は親友の名前を売った。
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【千星 那由多】
教室に着くと、巽の姿は見えなかった。
いつもなら先に着いていて俺を見かけるとすぐに「おはよう」と声をかけてくれるのに。
昨日のことがあった今日だ、居ても居なくても声はかけられるわけないか…。
俺は巽の席へと視線を送る。
日当瀬が「今日は天夜いないですね」と言って来たので「風邪でも引いたんだろ?」とごまかしておいた。
そして結局その日巽は学校に来なかった。
放課後、ホームルームが終わり日当瀬と一緒に(裏)生徒会室へ向かおうとした時、携帯にメールが来た。
震える携帯を見るとメールの差出人は巽であった。
――――――――――――――――
件名:今
本文:校外のオリーブ公園で待ってる。
昨日のこと謝りたい。
今から来てもらえないかな?
――――――――――――――――
そのメールを見て少し驚いたが、1日考え直してくれたんだろうか?
俺は心が少し軽くなった気がして、すぐにメールを返した。
わかった。すぐに行く…と。
日当瀬には用事ができたから先に行ってくれと促し、理由を聞かれたが野暮用とだけ答えすぐに校外から少し距離のあるオリーブ公園へと駆け足で向かう。
頑固な巽のことだからすぐに考えは変わらないと思っていたけど、そんなことより俺は仲直りができるかもしれないという安堵感で胸がいっぱいだった。
オリーブ公園はこの時間はこどもが結構いるが、巽は奥の木が生い茂ったところにポツンとあるベンチに制服姿で一人座っていた。
湿り気のある腐葉土を踏みながら巽の方へと向かった。
「…巽」
どういう登場をしていいかわからす、俺は静かに声をかける。
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【天夜 巽】
ベンチに座っている俺はもう何も考えていなかった。
いや、那由多を(裏)生徒会からやめさせる事ばかり考えていたか。
そう思うといつもの笑みが表情に浮かんだ。
那由多から声が掛かると立ち上がり軽く手を上げる。
「おつかれ。那由多。呼び出してゴメン。」
そういって近づいてきた那由多を見つめる。
「それで、(裏)生徒会を辞める決意は出来た?」
きっと俺は今までで一番静かに笑っていただろう。
嵐の前の静けさのように。
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【千星 那由多】
巽の声色は思った以上に明るかったにも関わらず、薄暗い木の下で微かな光とともに浮かぶ笑顔が怖かった。
(裏)生徒会を辞める決意は出来た?…だって?
こいつは俺に謝りたくてここに呼び出したんじゃないのか?
嫌な予感で胸が締め付けられる感じがし、頭が混乱しないように右拳を握りしめた。
「…どういうことだよ?」
俺は巽に尋ねたが、巽は何も言わずに微笑んでいるだけだった。
意味がわからない恐怖と不安に心拍数がどんどんと上がる。
「おまえ、なんとか言え――――――」
その瞬間、俺は後頭部を何かに強打され、地面に膝からガクンと倒れ込み腐葉土に体全体が落ちる。
視界がだんだん真っ黒になっていく中、目の前に立っているであろう巽に助けを求めようとしたが、体は起き上がることなく意識は遠のいていった。
「ごめんね」
そんな言葉が聞こえた気がした。
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【天夜 巽】
「ヒャッハー!!みたか俺のこの力!!!!」
いざ目の前で気を失う那由多を見ると心が揺らぐ。
でも、そんな事どうだって良いぐらい今は(裏)生徒会が憎い。
丸田の高らかな笑いを聞きながら俺は那由多を肩に抱き抱え人目につかないようにその場から姿を消した。
廃校舎の地下室。
戦時中は防空壕として使われていたここは戦争後地下室として立て直されている。
今は殆ど使用されていないそこに那由多を担ぎ込む。
剥き出しのコンクリートに加え、まるで牢屋のように部屋が区切られている。
他の仲間達が海中電灯や蝋燭のあかりを灯し、足場はなんとか見やすくなった。
部屋のようにコンクリートで囲まれている一室まで那由多を運ぶと丸田の部下が俺から那由多を奪い壁に凭れるように座らせ、両手を手錠と鎖で頭上に上げるように拘束していく。
その鎖は天井の出っ張りを得て、滑車へと繋がっている。
よくここで誰かをいたぶっている事がよくわかる。
地面を見ると血痕の形跡もある。
「丸田さん。一応これでも自分の親友なんです。
きっと、(裏)生徒会に誑かされているだけなので余り酷い事は…。」
冷めた表情のまま丸田に言葉を投げ掛けると彼の部下が此方を睨んだが気にせず近くの椅子に腰を下ろした。
「だとよ。どーする?」
「俺もそういうのは好きじゃない。(裏)生徒会に関しては丸田先輩だけの問題じゃないしな。」
口を挟んだのは丸田の部下にしては制服をきっちり着込み、髪も黒い。
丸田の部下と言うよりは(裏)生徒会に恨みがあるからつるんでいるようだった。
「なら、こんなのはどぉ?裸の写真撮ってやめなきゃさらしちゃうぞー!みたいなの。
巽ちゃんは、この子を(裏)生徒会からやめさせたいんでしょ?」
この場の唯一の紅一点。
短いスカートに茶色髪。一般的にみて可愛いと言われる容姿。
きっとこの女性もさっきの男性と同じ理由でここに居るのだろう。
その女性が那由多に近付き、直ぐ前に座り込み、頬を挟むように顔を覗き込む。
「うん。意外にかわいい顔。ほら、さっさと剥いちゃいな?」
その言葉を聞くなり丸田の部下二人が那由多の服を脱がしはじめた。
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【千星 那由多】
なんか…スースーする…。
寒い、すっごい寒い…俺、死んだのかな…。
朦朧とした意識の中、目を覚ますと薄暗い部屋でたくさんの人に囲まれていた。
一瞬ここがどこだとか、何があったとか、そういうことで頭が混乱したが、今の状況で俺の頭は一気に覚醒した。
「――――――!!!???」
脱がされている、上の服が。
しかも手錠が手首にがっちりとはめられ、鎖に繋がれていて身動きもとれなくなっていた。
周りを見てみると、少し離れた所にカメラを持った厚化粧の女と、その更に奥に巨体の男、
隣にここの奴らとは少し違った感じの黒髪の男、あとは数人取り巻きみたいなのが俺を囲っていた。
そしてその隙間から見慣れた顔の俯いている様子が見えた。
「…何してんだよ…コレ!!巽!!」
俺は動揺と怒りでその場で一番知っている奴の名前を呼んだ。
だけど巽は返事さえせずに黙ったままだ。
「っ……!」
鎖と手錠がジャラジャラとうるさい音を立てているが、外れる気配はない。
「えーもう起きちゃったの?つまんなーい!…ま、でも止めないケドネ〜♪」
その女の言葉と同時に周りの男の一人が俺のズボンのボタンを外す。
足は縛られてはいなかったが、抑え込まれていて俺の力では動かすことができない。
「ちょ…マジやめろよ!!なんでこんなことすんだよ!!」
「黙れ。何故こんなことをされるかわかるだろ?」
荒々しい俺の言葉に対し黒髪の男が呟くように言葉を吐いた。
「わかんねーよ!!」
「静かにしろっつってんのよ!!」
俺を静止するように、厚化粧の女は俺の顔を手のひらでひっぱたいた。
女に殴られるとか…今まで妹ぐらいにしか殴られたことねーよ…。
わけがわからなかったが、巽が絡んでいるとなるときっと(裏)生徒会の件だ。
こいつらはなんなんだ?
「わかってないみたいだけど…私たちあんたら恨んでんのよねー」
女の指が胸元を這うように滑る。
「痛いことされたくないなら、大人しくしてもらっていい?」
「……っ」
押し黙っていると、ズボンは引っぺがされ、ついには下着のみになってしまった。
「ウケるんですけどォー!」
俺は羞恥心や屈辱感で震えていたが、もう自分の力ではどうしようもできない。
座ったまま余所を向いている巽は俺を助けてくれるはずもなかった。
「………」
大勢にこんな姿を見られているということよりも、一番の親友が今の状況に加担しているということがショックだった。
やばい、泣きそうだ。でも泣きたくない。
俯いたまま唇を噛みしめ、肩で息をする。
「はい、最後のいちまーい♪」
俺の体を最後まで守っていた下着は女に脱がされ、それと同時に周りで爆笑が沸き起こる。
奥にいる巨体の男の声が一番うるさかったが、もうそんなのどうでもいい。
「こっち向いてよー那由多クーン」
髪を周りの男に掴まれ、無理やり顔を上げさせられる。
女が持っていたカメラで俺の惨めな姿を撮影していた。フラッシュが眩しい。
笑い声も部屋に反響してうるさい。
頭がガンガンする。
ああ、なんで、こんなことになったんだろ。
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【天夜 巽】
那由多の服が脱がされていく。
俺は助けを求めてくる那由多の顔が見れず視線を逸らせた。
女性が居るのは恥ずかしいが服を脱がされる位なんだ。
写真をばらまかれたく無かったら(裏)生徒会を辞めれば良いだけの話だ。
「那由多、これだけ(裏)生徒会を恨む人間が居るのにまだ目は醒めない?
後、取り敢えず教えてくれないかな?構成員の名前。
あ、特にトップの人間の名前が知りたいな。」
仲が良かった時の会話のように唇に笑みを乗せながら質問と言う名の尋問をする。
座ったまま、先程までとは違いシャッター音が聞こえる中真っすぐに相手を見つめ。
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【千星 那由多】
「やっと口開いたと思ったらそれかよ…」
俺は男に髪を掴まれたままの惨めな姿で巽に目をやった。
睨む気力も無い。虚ろな目で見つめるように。
「ここにいる奴等どーせ悪いことして成敗されてるだけだろが…。
…こんなことしたって、俺はみんなをお前みたいに売るつもりなんてねーし
そもそもトップの顔も名前も知らねーよ…」
シャッター音にかき消されるくらいの小さな声で巽へと投げかける。
「自分を正当化したいだけだろ…バカじゃね…」
そう言ったところで、黒髪の男が奥からこちらへ近寄って来て、俺の首をぐっと絞めつけた。
息の仕方がわからなくなったように眩暈がする。
「アンタ、今の状況わかって言ってんの?」
黒髪の男の目は周りの奴等とは違う、恨みで淀んだ目をしていた。
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【天夜 巽】
トップの顔も名前も知らない。
その言葉を聞いた瞬間、俺は目を見開いた。
「……………。やめといた方がいい。トップも知らない奴に何言ったって分からないと思うよ。」
俺がそう告げると、黒髪の仲間はその手を離して、また離れ、壁に凭れかかる。
俺は立ち上がると那由多を見下ろしながら、視線を合わせるようにゆっくりと近付き、その場にしゃがみこみ。
「那由多。自分が体よく利用されてるのもわからないで…。可哀想に。」
いつもの優しい手つきで頬を撫でてやってから、顔いっぱいに笑みを広げ俺は更に言葉を続けた。
「これ以上、足を突っ込まないように目一杯恥ずかしい写真。撮って貰おうか?」
そう告げると、壁にも凭れていた男が滑車を回し、那由多の腕を拘束している手が上へと上がって行き、無理矢理爪先立ちになる体勢にもっていかれる。
俺は下からその姿を見てから席に着くと、丸田の部下が両足を持ち、全く抵抗が出来ない状態での写真撮影が始まった。
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【千星 那由多】
巽は俺の言葉を信じたのか、黒髪の男を静止する。
男の手が俺の首から離れ、俺は咳込みながら空気を吸った。
締め付けられる手が離れたのはよかったが、巽は更に追い打ちをかけてくる。
頬を撫でる巽の手は酷く冷たく、笑みを浮かべた顔は恐ろしかった。
全身の毛が逆立ち、今にもこみ上げそうな嗚咽を何とか喉元で閉じ込める。
巽の合図で俺の体は吊り上げられ、軽く宙へと浮いていった。
こんなのは、もう俺の親友じゃない。
爪先立ちで立つ俺は更に過激な醜態を晒すこととなった。
シャッターとフラッシュは止まることを知らず、罵声と笑い声とともに俺に浴びせられる。
俺の中の自尊心は崩壊し始めていたが、もう自分でも何を考えているのかさえ良くわからなかった。
唇から血の味がした。感情が振り切ってもしかしたら泣いていたかもしれない。
ただ、それでも俺は(裏)生徒会のことは一言も喋っていなかったと思う。
心のどこかで巽は俺の事を助けてくれると思っていた感情も消え、ただただ時間が過ぎるのを虚ろな頭で考えていた。
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【三木 柚子由】
どうしよう…
千星君が(裏)生徒会に来ない…。
授業が終わってからもう三時間も経つ。
「逃げタナ…」
「確かに今日はいつもと様子が違いましたけど……。
いや!!千星さんに限ってそんなこと、絶対にありません!!!」
イデアちゃんが呟いた後、日当瀬君も顎に手を置きながら呟くがその後に慌てて机を叩きながら立ち上がる。
そして片手を握りながら力説し始めた。
日当瀬君が色々呟いている間にイデアちゃんは何やらノートパソコンを取出し、それとイデアちゃんの耳の後ろから伸びた配線を繋ぐ。
「オールクリア データ転送シマス」
いつもの声ではなく、機械音でイデアちゃんが喋る。
すると机の上のノートパソコンの画面がひとりでに動き始める。
私も日当瀬君も急いでその画面を覗き込むとそこには千星君の携帯で行われた、発着記録、会話した内容、メールの履歴、インターネットの観覧記録等様々なデータが映し出されていた。
「これって…」
「ナユタの携帯の記録ダ。
残念ダガ逃げた訳では無さそうダ」
そう言ってイデアちゃんは、一通のメールを見せてくれた。
それは千星君のクラスメイト天夜君からのメールだった。
――――――――――――――――
件名:今
本文:校外のオリーブ公園で待ってる。
昨日のこと謝りたい。
今から来てもらえないかな?
――――――――――――――――
「謝りたい?どういう事だ?」
日当瀬君が腕を組みながら呟く。
私も日当瀬君も千星君の全てを知っている訳ではない。
けど、三時間も謝罪しているとは思えない。
「那由多の発信機からの信号ハ、廃校舎を最後ニ途切れてイルナ」
それを聞いた途端に日当瀬君は携帯片手に走りだした。
廃校舎は余りいい噂が有るわけじゃない。
そこを最後に電波が途切れたと言うことは何か事件に巻き込まれた可能性も。
私も日当瀬君を追い掛けるように立ち上がったがイデアちゃんに止められてしまった。
「会長がいないのニ、行ってドウスル。」
そういわれるとハッとしたように目を見開きその場で拳を握るしか無かった
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【日当瀬 晴生】
ヤバイ…!!!!
廃校舎は余りいい噂を聞かねぇ。
不良が溜り場として使う場所だ。
そんなところで携帯の電波が途絶えたなんて唯事ではない。
俺はイデアアプリを起動させ、独自のプログラムを入力させると携帯が小さな液晶付の端末とイヤフォンに変わり、イヤフォンを耳に付けると端末のキーボードを押していく。
「イデアさん。どの辺りで電波が途切れたか、データ流して貰ってもいいですか?」
すると直ぐに俺が端末に映した廃校舎の見取り図に赤い線で千星さんが通ったであろう経路が示される。
途中ごろつきが数名居たが、今は千星さんの安否の確認を急ぎたかったのでばれないように廃校舎に忍び込んだ。
液晶に示された通りの道を歩いていくと行き止まりにぶち当たった。
しかし、携帯が落ちている雰囲気もこの場所が荒れた形跡も無かったため。
埃についた無数の足跡を根気よく観察するとある一定の場所で全てが消えていた。
俺はその場所に跪くと液晶の明かりで床を照らす。
そこには地下に続く扉があった。
「ここか。」
俺は急いでイデアアプリを展開し、拳銃の形に変形させると地下へ続く扉をスライドさせる。
見えた階段を銃を構えながら降りると、談笑する声が聞こえた。
「ヒャッハー!!今日のカモはつまらんかったな!!
骨無しだったぜ!!」
「そうは言うけど、(裏)生徒会の情報は何も聞き出せていない。
彼は結局、何もしゃべらなかった。」
「まぁ、大丈夫でしょ。彼が本当に(裏)生徒会のメンバーなら、きっと仲間が助けにくるわ。」
巨体な男とここには似つかわしくない普通の黒髪の青年と化粧が厚い女。後は格下が数名そこには居た。
どうやら千星さんはここに居る様子だ。
しかも最悪の状況で。
余り気が進まなかったが銃に付いてあるボタンでイデアアプリを再度起動させるとカートリッジの一つを催眠弾に変化させ取り巻きの中に投げ入れる。
「ッ!!??な、なんだ。これわぁぁぁぁぁあ……!!」
どうやら戦闘慣れはしてない様子だ。巨体の声が響き渡る。
コン…と地面に転がる手榴弾型からプシュュュ――!!と音を立てて吹き出された煙を全員吸ってくれた様子だ。
新手が出てくる前に、その煙の中、眠ってしまうヤツがバタバタと倒れる中を、俺は息を止め駆け抜けた。
そして銃を構えながら人の気配のする扉を勢い良く開くと、そこに居たのは全裸の千星さんと天夜だった。
「千星さん!!!!!」
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【天夜 巽】
「どういうつもりだ…!!天夜!!
テメェ、千星さんに何をした!」
「やっぱり、君も(裏)生徒会の一員だったんだね。残念だよ、君とはいい友達になれると思ってたのに…。」
「…どういう……まさか!!テメェ!!(裏)生徒会の情報を聞き出すために千星さんをこんな目に合わせたんじゃねぇだろうな…」
そう告げると俺は今までにない冷たい笑みを表情に広げた。
「ただ、裸の写真を撮っただけだよ。
那由多がもう(裏)生徒会に関わらないように。」
そう言った瞬間に、俺と那由多を引き裂くように一発の銃弾が飛んできた。
慌てて俺が避けると、それに合わせるように感情を露にした日当瀬が俺の左顔面を目がけて殴り掛かってきた。
床を蹴り右に蹴りそれを避けてやると日当瀬は驚いた顔をしていた。
両足が地面に着くなり、軸足で蹴り、足裏を突き出すように日当瀬の顔面を蹴り付ける。
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【日当瀬 晴生】
感情が昂ぶって居たとは言え、イデアアプリを発動させてからの拳を久々に外された。
しかもその後間髪入れず繰り出された蹴は銃の腹で受けるのがいっぱいいっぱいだった。
なんだこいつは…。
喧嘩慣れしてんのか?
いや…。
千星さんを背中に守るようにして俺はそこに立つ。
「君がここにいるってことは外の人達は?」
「眠らせた。」
「そう…。なら、俺が君を倒さないとね。」
そういって構える相手は今の武道では見たことが無い構えだった。
また、地を蹴って奴が来る。
……速い!!!
俺は防戦一方に押し遣られた。
一発一発が重くしかも的確に急所を狙われている。
相当鍛えぬかれた拳の繰り出し方だが、型のように綺麗過ぎる。
観察をしていると最後の蹴の防御が間に合わず、俺は壁に叩きつけられた。
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【天夜 巽】
「―――――ぐっ!!」
俺の蹴がヒットして呻き声と共に日当瀬が壁へと飛んでいく。
自慢では無いが俺の運動神経は飛び抜けているし、毎日扱かれているかのような生活をしている。
そこら辺の男に負ける気はしない。
(裏)生徒会もこんなものかと息を吐いたところで日当瀬は起き上がってきた。
「まだするの?君は実力の差が分からない程愚かでは無いと思ってたけど。」
「はっ!俺は元から遠距離支援型でな、肉弾戦は苦手なんだよ。」
「なら、尚更、さっさと諦めてよ。人を殴るの余り好きじゃねぇんだ。」
「…その口で良く言えたもんだな。…ったく、あんま使いたく無かったんだけど。」
日当瀬の眼光が鋭くなる。
そう言った彼はカートリッジを取り替え、俺を目がけてトリガーを引く。
しかし、それは簡単に避けれる位置でそのまま相手に殴りかかろうとした瞬間、背中に空気の塊を受けたような重い衝撃が走る。
「……ッ!!な…に…ッ」
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【日当瀬 晴生】
俺はいつも貫通式の弾を籠めているがあれは殺傷能力が高く威嚇程度にしか使えない為、今は空気鉄砲を更に圧縮したような弾に変えてある。
これは対象物に当たると小さな爆発が起こる代物だ。
爆発の威力は抑えてあるので殴られたような衝撃が走るだけだろう。
矢張り、こいつは喧嘩慣れをしていない。
普通に殴り合う事では勝てないかもしれないが跳弾や戦術を取り入れていくと勝てるかもしれない。
更に俺は四方に向けて銃を乱射し始めた。
相手は俺から撃つ弾の流れは見えるようだったが跳弾までは予想できないようで避けるのがいっぱいいっぱいの様子だ。
「……ッ!!くそっ……、く……ぅあ!!」
「残念だったな。」
一発の弾が相手を捕えると立て続けに命中する。
相手が近づいて来れないように銃を乱射していると何発も食らい続けた相手が膝を付いた。
そのざまに口角を上げ、見下す。
千星さんをこんな目に合わせたんだ、まだまだこんなもんじゃ足りねぇが…。
その後、カートリッジを変える瞬間を見て、相手は真っ直ぐに俺に向かって走ってきた。
その相手に向かって一発の銃声が響く。
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【天夜 巽】
くそ!!
身体能力は俺のほうが上なのに!!
近づけさえすればなんとかなるだろうが相手はそれを許してはくれないようだ。
全て跳弾狙いかと思うとそうではなく直接自分を狙う弾もある。
全く弾筋を読めなくなった俺は、腕や足、脇腹に数発食らってしまった。
殴られたような熱い痛みが全身を駆け巡る。
「ぐ………ぅ…」
しかし、耐えられない事はない。
普通の拳銃の弾なら既に俺は死んでいる。
しかし奴が繰り出す弾は殴られた程度のダメージしか俺に与えていない。
そう考えている最中に俺はまた一発の弾を腹部受けて跪いた。
その瞬間、相手が弾のカートリッジを補充し直すのが見え痛みも忘れて走りだす。
「―――ここだ!!!」
「バカ、遅ぇ!!!」
目の前に弾が飛んでくる。
自分から飛び込んで行ったため避けられる距離では無いがこれでいい。
俺は元からこの弾には当たるつもりだった。
両手を顔の前でクロスしてその衝撃に耐えようとしたがそれは先程の弾とは違い俺の腕に突き刺さる。
その瞬間相手の口角が上がった。
「……ッ!!!これは!!」
「麻酔弾。…まぁ、暫くおねんねしときな。」
「……ッ!!どうして俺が…俺が…」
駄目だ目の前が霞む。
立っていられない。
そのまま俺は膝から崩れた。
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【日当瀬 晴生】
俺の計算通り、ヤツは俺の弾切れを狙ってきやがった。
それだけでなく、弾の威力を計算して俺の弾をくらった。
そのまま殴りにくるつもりだったのだろうが、そこは俺の方が一枚上手だった。
カートリッジを変える際に先程までの破裂する弾ではなく、麻酔弾に変えた。
それをまともにくらってしまった相手はその場に倒れこんだ。
「……俺はテメェが羨ましかった、千星さんの幼なじみで…親友」
「だったら…ッ……俺の気持ちが分かる…」
「分かんねぇよ!!!テメェ親友ならなんでもしていいと思ってんのかよ…!!!
……テメェは俺の(裏)生徒会の顔を知っちまった、本当は記憶を消さなきゃなんねぇんだけど…」
そう告げたところで天夜は意識を手放したようだ。
今日はこいつが戦術慣れしていなかったから勝てたようなもんだ。
しかも武器も持っていなかった。
暫く考えに耽ってしまっていたが気を取り直すように千星さんのところに向かい、自分の制服で彼を包む。
本当は天夜の記憶を消したいが今は千星さんを連れ帰ることが先決だ。
他の奴らが目覚めてもめんどくせぇ。
俺は千星さんを背中に抱え、催眠弾で寝ている奴らの場所に置いてあったカメラを回収してから、
武器を携帯に戻すと一番近い(裏)生徒会室への秘密の通路を開けてもらいその場から立ち去った。
■Mission No.11 「トラウマ」
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