【日当瀬 晴生】
『強奪許可!!!』
イデアさんと、エイドスとかいう奴の機械音が響き渡る。
二人の仕業か、空中に液晶モニターのようなものが出てきて、俺たちの戦闘模様がそこに映される。
なるほど、観客席に人が座っていたら完全に見世物のような形になるな。
千星さんがリーダに決まった。
これは何としても守り抜かないといけない。
ルールから分析するとリーダの腕章、即ち、ディータの腕章を取ったら終わりだ。
しかし、このゲームは奥が深い。
リーダの腕章を取る前なら他のメンバーの腕章も奪えると言うことだ。
腕章を五つ奪うと勝ちになるので、速攻でリーダを狙って腕章を奪うか、外から崩していくか、考えものだ。
「どうする?」
天夜から声がした。
千星さんを見つめたが彼は首を傾げていたので、作戦は俺が立てることにした。
「速攻でリーダを狙いましょうか。
他の全員を取ってからと言う手も有りますが、能力も洗い切れてませんし。
とりあえず、一回戦目は様子見も兼ねて早く終わるに越したことは無いと思います。」
お互い臨戦態勢のまま告げると二人は深く頷いてくれた。
「天夜はフリーデル、俺はフィデリオを引きつけます。
千星さんは可能ならディータを攻めてみてください、俺も援護しますので。」
そう告げてから、俺は調度三人の真ん中に空気砲を撃ち込む。
今日は初めから貫通式の強力な弾だ。
俺の銃口から放たれた弾は周りの空気を巻き込み圧縮していき一直線に敵の元へと飛んで行った。
敵が散開した途端に俺の作戦通りに皆が動き、一対一の陣形へと持ち込んだ。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
俺はディータか…あいつの細いピアノ線のような糸には嫌な思い出しかない。
けど…やるしかない。
晴生が空気砲を打ち込むと相手の陣形が拡散する。
真ん中にいたディータは上後方へと飛び、フリーデルは右、フィデリオは左。
巽が頷いたのを合図に、俺はディータを目がけて地を蹴った。
走りながら剣を宙へと構え、昨日のローレンツと闘った時の感覚を思い出す。
火を纏う感覚…。
集中しながら素早く火という文字を綴り、それを切り裂くように横へと振った。
業火が剣へと纏わりつくと、炎の剣へと変わる。
「おっしゃ…!」
その瞬間にフィデリオからリング、フリーデルからハサミとメスのようなものが飛んでくるのがわかった。
しかし、それは晴生と巽に阻止され俺の元へは届かない。
剣を構えたままディータの後方へ回るために横をつっきる。
ディータはそれを追う様に俺から視線を逸らさない。
「オマエがオレの相手かヨ?甘く見られたモンだナ!」
ピアノ線が伸びてきた。
炎の剣で燃えるかどうかはわからなかったが、それを走りながらふり切るように剣を振った。
「…っと…」
ディータはピアノ線を自分の元へとピンと引っ張った。
炎の剣に当たらないままそれはディータの手元へと縮みながら戻る。
「そのFlammenschwert、新しいワザだろ?一応話はローレンツから聞いてんダヨ。
思った通り厄介そうダナ」
ディータはドイツ語を並べたようだったが、きっと「炎の剣」と言っているんだと思う。
あちらも確証はなさそうだったが、この行動と言動から見て、炎の剣ならディータのピアノ線は燃え斬れるかもしれない。
「ま、Flammenschwertを狙わなきゃイイってこったな!」
ディータは手を闘技場に立っている柱へと翳した。
ピアノ線がそちらへ飛び、巻きついたように微かに光る。
俺は石畳に足を踏ん張り、ディータの右斜め横で止まった。
ガラガラと柱が地面から離れ、まるでそれに重力がないようにふわりと宙へと浮かんだ。
-----------------------------------------------------------------------
【天夜 巽】
俺は向かって右に逃げたフリーデルと対峙していた。
あちらも那由多狙いなのか、那由多に向かって武器が投げられている。
どうやら、彼女はハサミやメスなどの医療器具を使うようだ。
仕組は分からないが、那由多に向かって投げられたハサミやメスを僕はクナイで弾き落した。
そうすると、それはまた、彼女の手元に戻って行った。
磁力とか、そう言うのが関係有るのかな。
頭の中でからくりを想像しながらフリーデルの前に立ちはだかる。
そうすると、彼女はハサミを片手に持ち、開いた状態で俺に切りかかってきた。
脇腹の辺りの空気を掠める。
はっきりいって、弱い。
速さも、正確さも戦士としては三流だ。
考えている間に那由多の方からけたたましい音がした。
「那由多!!」
ディータが岩をピアノ線で持ち上げているようだ。
あんなでかい岩那由多一人で防ぎきれるのか?
そう思うと、女だからと手加減する余裕は無くなった。
懲りず、俺をハサミで突き刺そうとしてくる彼女を回転するように交わし、腕章側へと身を躍らせる。
「悪いけど、速攻でケリ、つけさせて貰うね。」
そう言って、腕章に手を伸ばす。
その時だった。
彼女は今までとは別人かのように、俺の上空をバク転しながら飛び越える。
「―――っ!!!」
一瞬で背後を取られてしまった俺は、急いで身を翻す。
間一髪で彼女のハサミをクナイで受けることが出来た。
キィン!!と、辺りに金属音が鳴り響く。
なんだ、今の動きは…。
明らかに彼女の意志で動いているのではない、何かの力が加わったような、動き方だった。
那由多を加勢に行きたいがどうやら一筋縄ではいかないようだ。
俺は改めてクナイを構え直した。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
おいおいおいおい、あんなデカイものも持ち上げられるんですか…!
どうなってんだよあいつのピアノ線!
焦る俺をもっと攻めたてるようにディータはその石柱を上から突き落すかのように俺の真上から振り落とす。
さすがにこれは燃えなさそうだ、燃える以前に正面から受け止められる力なんて俺にはない。
「くっそ!」
振り落とされた石柱から間一髪、転がるように身をかわす。
石柱と地面が衝突すると、地面が割れるほどの衝撃で地鳴りが起き、起き上がろうとした体勢が崩れた。
その瞬間を狙って石柱は俺の左横を打ち込むようにすぐさま突進してくる。
まずい!
俺はとっさに炎の剣を地面へと思い切り振りかざし、業火の爆風の勢いで思い切り上へと飛んだ、というか飛ばされた。
考え無しの行動だったので、この勢いで身体が浮くとは正直思ってなかったが、……やばい、ちょっと飛び過ぎ…。
「ったああああああ!」
宙に浮いた身体を立て直すことができない上飛び過ぎた位置が高所恐怖症の俺には怖すぎた。
地面へと落下していく間にどうすべきか考える。
えー落ちても痛くない方法…方法…。
そんなことを考えていると、先ほど避けた石柱がこちらに向かって来ていた。
避けたのにこれかよ!
焦っている暇なく俺を目がけて石柱は突進してくる。
あーもう!!!
俺は地面に落ちる寸前に、横から飛んできた石柱に向かって剣を振りかざした。
剣は石柱には当たらず、炎の爆風の勢いと石柱の勢いがぶつかって、次は弾けるように横へとぶっとんだ。
だが、これのおかげか、俺は落下寸前で体勢が整えられ地面をごろごろと転がるだけですんだ。
石柱も弾け飛び、地面を擦っていきながら止まったのが見えた。
な…なかなかやるじゃん炎の剣!!!
-----------------------------------------------------------------------
【天夜 巽】
那由多の方から地響きが聞こえる。
彼女の攻撃は大したことはない、大したことは無い筈なんだ。
実際余所見も出来るくらいなのに…。
逆にあのディータとか言う男はどうやらかなりの使い手のようだ。
彼の武器、ピアノ線で石柱まで持ち上げている。
どうやら、那由多はぎりぎりのところでかわしているようだけど、見ているこっちが冷や冷やする。
「くっそ!!!」
相手から投げられてくる無数のメスを自分のクナイで相殺する。
その後の踏み込みは俺の方が速い。
これも、もう何回も繰り返している。
間合いを詰めることで、フリーデルが逃げ腰になり表情が強張る。
普通の人間ならこうなるとそれ以上後ろには進めないはずだ。
俺が横一文字にクナイで切り裂くころには彼女は、グン…と、何かに引っ張られて様に後方に移動する。
それだけじゃ無く、そこからまた、メスを投げてくる。
体勢的には難しい筈なのに。
予想できない動きに俺は手間取り、奥歯を噛みしめる。
どうやら、日当瀬の方も均衡しているようだ。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
「へー便利ダナ、その剣」
ディータは口端を上げながら俺に向けて笑った。
便利なのは今やりながらわかったことだけど、な。
俺は地面に転がった身体を立ち上げ炎の剣を構えなおす。
どうにかしてあの石柱を壊さないといけない。
でもこの火では焼切れないし…どうするか。
火以外で俺が使えるものと言えば……水…。
水を扱う訓練も今までの特訓でしてきたが、纏うことはやっていない。
実際やればできるかもしれないが、どういったものになるかが想像がつかないので不安がある。
汗が顔を伝い、顎からぽとりと地面に落ちた。
…水の弾…。
水の弾なら作ることができた。
それは水が圧縮された硬化な弾になる。
なら、それで柱を貫通させて割り、うまくいけばディータも攻撃できるかもしれない。
だけど、この炎の剣のまま書けるか…?
考えているうちに再びディータが石柱を宙へと掲げる。
「遊びはオワリにして、さっさと潰れろヨ!!テンパ野郎!!」
「っ…テンパは余計だ!!チビ!!」
「チビッ…だとォ!?」
チビという言葉に反応したのか、ディータは俺の真正面に向かって石柱を飛ばしてきた。
好都合!
急いで炎の剣で水という字を宙へといくつも綴る。
この剣のまま書けるかどうか不安だったがうまくいったことに小さく頷き、水という文字が渦になって圧縮されたいくつもの弾へと変化する。
「いっっっけ!!」
その全てを飛んできた石柱へと当たるように思い切り火の剣を振った。
水の弾たちは勢いよく石柱の中心へ飛んで行き、綺麗に真っ二つに割る様に貫通していく。
「!?」
ディータの驚いた顔が二つに割れた石柱の間から覗いた。
そしてそのまま、水の弾がディータへ向かって飛んでいく。
俺はそれを確認すると、ディータ目がけて走り込んだ。
「クソッ!!」
ディータは水の弾のいくつかはうまく避けきれたようだったが、避けきれなかった水の弾がジュウッという焼けるような音をたてて右足と左頬を掠めた。
「アッヅ!!!」
どうやら火の要素も加わっていたのか、それは熱湯の圧縮弾に変わっていたようだ。
ディータが体勢を崩す様に蹲る。
俺は地面に激しい音を立てて落ちる石柱の間を抜けて、怯んだディータの隙を狙った。
そう、狙いは……ピアノ線!!
まだ手元へ戻っていないそれを目がけ、火の剣を突き立てた。
地面に剣が刺さる音と共に、業火が細い線へと乗り移る。
細い一本線を描きながらにディータの元へと這うようにピアノ線が燃えていった。
おっしゃ!!これで武器を封じることができた!!
その火を辿る様に俺はまだ蹲っているディータの元へと駆け込んだ。
腕章を…取る!!!!
-----------------------------------------------------------------------
【天夜 巽】
那由多の方からけたたましい音が聞こえた。
フリーデルとやりあいながら那由多の方をちらりと見る。
すると調度石の柱が壊れディータが蹲る様が見て取れた。
凄い!
きっと、那由多が倒したに違いない。
那由多はディータ目掛けて走りこんでいる。
ピアノ線も燃えてしまったようだ。
一回戦は早く片がついたな、と、思った。
仲間が跪いて動揺したのか、フリーデルの動きが鈍った。
出来れば今の俺の相手の腕章も取りたかった為、那由多がディータの腕章を取る前にと、俺も地を蹴り飛躍した。
その時だった。
目の前であり得ない動きが起こる。
グン、っと、先ほどまでの妙な動きでフリーデルが動いた。
その姿はさながら、人形が糸で引っ張られているような動きであった。
「な―――に!!」
そのまま、ものすごい速さでディータの元に引っ張られていく。
調度、ディータのと那由多に割って入る形だ。
フリーデルは引っ張られる力を利用して那由多に無数のメスを投げつけていた。
「那由多!!危ない!!!」
その、一瞬。
俺が一瞬慌てた隙をついて、フィデリオが俺に向かって例のリングを投げつけてくる。
「―――クッ!!」
身を弓なりに反らして、間一髪でそれを避けた。
あの、特殊なリングは触れたら終わりなので気をこいつに体術で掛っていくことはできない。
直ぐに構えを直すと、フィデリオの後ろから怒号が飛んだ。
「俺との戦いの最中に余所見すんなッ!」
追うように日当瀬の声が聞こえる。
フィデリオがが俺に攻撃を仕掛けたせいで、均衡が崩れる。
日当瀬の空気砲をリングを重ねることで防いだ彼は、俺の横を飛ばされるようにすり抜けた。
そして、那由多への援護に行かせないと言うかのように俺たちの前に立ちはだかった
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
ディータまで詰め寄り腕章を掴みとろうとしたその時だった。
「バーカ」
そう言って俯きながら笑うと、横からフリーデルが吸い寄せられるようにこちらへと物凄い速さで向かってくるのが見えた。
同時に彼女が投げた無数のメスも俺を目がけて飛んでくる。
「!!」
俺は腕章を掴もうとした手を止め、飛んできた無数のメスを炎の剣で薙ぎ払った。
一本だけ炎で消すことができなかったメスが、俺の右腕を掠める。
「ッ――!!」
鋭い痛みに顔が一瞬歪む。
飛んできたフリーデルはディータと俺の間を割り入るように入り、ガクンッと歪な動きで体を停止させた。
俺はそのまま更に少し後退し、二人との間に距離をとる。
なんだ今のは?フリーデルの動きがおかしい。
まるで何かに操られているような…。
考える間もなくフリーデルは再びポーチからメスを取り出し投げつける。
俺はそれを炎の剣で薙ぎ払いながら更に後ろへと後退した。
メスは溶けないことはなかった、けれど何度も投げつけられると攻撃できる隙がない。
ディータは跪いたままフリーデルの後ろで顔を上げた。
「ダンケ、フリーデル」
そう言ってにやついたような表情が覗く。
クソ!女子ってだけでも攻撃し辛いのに、これじゃあディータを狙えない。
巽達の方を向く余裕はなかった。
どうすれば…!
-----------------------------------------------------------------------
【日当瀬 晴生】
「まずいな…。」
小さく天夜が呟いている。
視線はフィデリオのその向こうの千星さんの方へ向けられているようだ。
「わーってる。」
うまく隔離されてしまった。
ここは息が合わないとかいってらんねーな。
千星さんはフェニミストだ。
女の人に手を上げることなんて出来ないだろう。
しかも、今の引っ張られるような動きは気になる。
俺の仮定が当たっているとしたらますます千星さんは不利になる。
只でさえ、一対二だ。
まだ、今は硬直状態なので大丈夫だが、ディータの奴が本格的に仕掛けてきたら危ない。
「おい、天夜。さっさと、こいつぶっ飛ばして、千星さん助けに行くぞ。」
俺の言葉に天夜は深く頷いた。
特訓でも一度も息が合わなかった俺たちがここで初めて息を合わせることになる。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
投げられる無数のクナイは、止まることを知らない。
ディータが自分の腰元から取り出した新しいピアノ線を使って拾い上げているからだ。
徐々に俺とディータ達の距離は開いていく。
「だいぶ開いたな、フリーデル、イイゾ」
そう言うとフリーデルはメスを構えたままピタリと止まった。
どちらにせよ、俺は女の子を狙うなんて無理だ。
甘いと思われるかもしれないけど、昔から女性には手をあげるなと散々親から言われてきた。
この状況で言いつけを守るのはおかしいのかもしれない、だけどそれは俺のポリシーでもあった。
肩で息を吐きながら炎が揺らめく先にいるフリーデルをじっと見つめた。
その時、キラリと彼女の腕元に何かが光る。
目を凝らすように細め、そこへと視線を集中させた。
「……ピアノ線……!」
もしかして、彼女はディータに操られて動いているのか?
こちらへ飛んできたあの不思議な動きは、ディータのピアノ線のせいだったんだろうか。
「気づイタ?だいぶ見えにくい糸だカラかなりジッと見ないとワカンネーだろ?」
ディータはにたにたと笑いながら続ける。
「オマエ女狙うのコワイんダロ?この状況でアリエネー奴ダナ。
そんな甘さ、今必要アルカ?」
「うるさい…」
「ハッそういうアマッチョロさ、俺は大嫌いダネ!……フリーデル、薬」
その言葉にフリーデルはディータの方へと振り返る。
今、ならなんとかなるのかもしれない。
だが、どうせ攻撃をしかけても、ディータはフリーデルを使ってくるだろう。
二人を睨みつけながらどうしようかと眺めていると、フリーデルはポーチから何かを取り出した。
それは液体の入った茶色の瓶で、それを彼女が握りしめると手元が眩く光を放つ。
「火傷とスリキズだな、コレを塗ってオケ」
そう言ってそれをディータへと手渡した。
一瞬何か仕掛けて来るのかと思い注意してその行動を追っていたが、ディータはその瓶を開けると、水の弾でついた傷へと塗り込んでいた。
淡い光を放って傷が徐々に消えていくのを見て、俺は目を瞠った。
この子……回復とかそんなタイプか?
ますますやっかいすぎる…。
-----------------------------------------------------------------------
【フリーデル】
私の能力は薬品や医療器具の能力を高めると言うものだ。
これは私本来の能力ではなく、オースタラ高校の元(裏)生徒会長のシッターのものだ。
そう、私は彼と能力の共有をした。
もともとから私の能力では無いので出来ることは限られているが、それでも回復する分には問題ない。
ディータの傷が治っていく様を見つめる。
この様子なら問題は無いだろう。
それよりもこの男だ。
私が女だから攻撃出来ないだと…。
馬鹿にしているのかこいつは。
「アマイナ。甘過ぎる。Japanerはこんな奴ばかりなのか?
女も殴れないヤツはさっさと、腕章をワタシテ、九鬼サマに会長の座をオユズリするんだな。」
ふざけている。
(裏)生徒会はそんな遊びで出来るものではない。
少なくても、こちらでも地区聖戦が行われるのであれば尚更だ。
私たちは政府から与えられた任務を着実にこなさなければならない。
また、他校も信用してはならない。
こんな、お遊戯感覚で(裏)生徒会をやっている奴なんかに負けられない。
「ディータ、私が時間を稼ぐ、サッサト治せ」
そう告げると、私はハサミを片手に千星那由多に斬りかかった。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
フリーデルが斬りかかってくる。
が、そこまでスピードは速くない。
剣で防ごうかとも思ったが、炎の剣じゃきっと彼女は焼けてしまう。
…無理だ。
俺は斬りかかってくるフリーデルの攻撃を横へと交わす。
そのまま更に後ろへじりじりと下がり更に間合いを取った。
「その剣で攻撃シネーのカヨ?」
右腕の傷を治しているディータがこちらを見ながら笑っていた。
「……」
「ほんっとーにヘドが出るホド甘いヤツダナ」
「…甘くて何が悪い…お前にどう言われようが俺にはできない」
フリーデルから視線を外さないまま、茶々を入れてくるディータに反論した。
わかってるんだ、甘いのは…でも、できない。
…したくないんだ。
フリーデルは更にハサミを振り回し、まるで挑発するように俺へと斬りかかってくる。
それを避けている最中にも、ディータは俺に言葉を投げかけた。
「……あー悪いネ…そんな奴は誰も傷つかなきゃイイと思ってる。
ダケドな…ソノ甘さがモット人を傷ツケんだよ!!」
「ディータ」
フリーデルがディータの言動を制止するように名前を呼ぶ。
「止めんナヨフリーデル。
…調度イイからオレの傷が治ルまでアマッチョロイお前に教えてやるヨ。
俺達の裏生徒会で起きたコト…そんな甘さでやってけネーッテコトも」
フリーデルの動きがガクンと止まった。
どうやらディータがピアノ線で彼女の動きを無理矢理抑え込んだようだった。
小休止、といったところか。俺は深く息を吐く。
フリーデルの向こう側で巽と晴生がフィデリオと闘っているのが見えた。
ディータはそのまま続ける。
「オレがオースタラ高校の(裏)生徒会に入ってから少しタッテ、地区聖戦が行われようとシテイタ。
その時の(裏)生徒会のメンバーはオレ達に加えて、会長の……シッター。」
■Mission No.30 「甘さという凶器」
■topへ帰還