【千星那由多】
合宿はいつもの訓練施設で行われる。
ここで訓練するのは、リコール決戦が行われて以来だ。
あの時壊された一部の建物はすでに新しくなっている。
ここに副会長がいるのもなんだか不思議な感覚だった。
合宿には全員集まるのかと思ったが、夏岡先輩と弟月先輩はいなかった。
受験生だし、夏岡先輩はバイトなどで忙しいんだろう。
宿舎に荷物を置くと、さっそく訓練が開始される。
だいぶ身体は鈍っているはずだ。明日は確実に筋肉痛になるだろう。
訓練のグループ分けは、俺、会長、副会長、そしてあの純聖という少年。
巽と晴生は三木さんと幸花ちゃんと一緒だった。
会長は俺達のグループに入っていたが、特訓には参加しないようだ。
このグループは精神的にもきついものがあるなと思いながら、それぞれが外や室内へと移動していく。
その途中で、イデアに何かを書いた紙を渡された。
「…なに?」
「この間の続キダ」
この間の続き、の意味がわからなかったが、イデアはそれだけ言うと三木さんの方へと着いて行った。
わけがわからずにその紙を開き中身に目を通した。
――――――――――――
ナユタへ。
覚えているか?あの日「覚えていろ」と言ったことを。
仕方ないから弱いお前に必殺技をくれてやろう。
「火之矢斬破(ヒノヤギハ)」
お前の事だからあの日だけではきっと会得できんだろうと思い、この日にわざわざ変えてやった。
この合宿で会得できなかった場合はどうなるかは…わかっているな?
イデアより
――――――――――――――――
……なんだろう、文字だけなのに文面から恐怖がにじみ出てくるのだが。
そう言えばスタンプラリーの時、何故か俺だけが必殺技を貰えなかった。
俺になんてくれてやる筋合いが無いのかと思っていたが、どうやら違ったようだ。
純聖にもイデアにも弱いと言われ、俺は一体何のためにここにいるんだろうかと、訓練開始前から少し心が重い。
みんなも期待してないんだろうな。
それはわかってるし、実力の無い俺が悪いんだろうけど。
でも頑張らなければ。
みんなの足を引っ張るわけにはいかないから。
[newpage]
【純聖】
次の日俺達は柚子由と訓練施設に向かった。
俺達のエーテルも色々な施設がそろってるけどここも中々色々ある。
こういうところにくると探検したくてうずうずするんだけど、そこは左千夫に先手を打たれて室内の丈夫そうな訓練場所へと連れて行かれた。
てっきり左千夫が稽古してくれると思ったのに、左千夫の奴はさっさと二階の観覧ブースに上がっていき端末を弄っていた。
俺は下からそっちを見上げながら文句を言う。
「なんだよ、左千夫が相手してくれんじゃねーのかよ!!
俺、あんなよわっちいやつの相手なんて嫌だぜ」
そう、俺と一緒の班にナユタが居る。
他にももう一人いるけど、雰囲気的にナユタの相手をさせられそうだったのでそれは断固拒否したい。
左千夫は溜息を吐いて、そのまま真っ直ぐに指をさした。
そこにはナユタではなく、九鬼と言う奴が突っ立っていた。
俺はこいつが好きではない、と、言うかどうしてもマフィアだと認識するだけで体が硬くなってしまう。
「あっちにお前向けの調度良い相手が居ますよ。
僕と訓練するよりよほど身になります、那由多君は二人の戦いを見ておいてください。
あ、その間に基礎訓練はやってしまってくださいね。」
そう思っている間に左千夫は指示をだしてさっさとディスプレイに視線を落としてしまった。
確かに基礎は全部教えて貰ったけど!俺は左千夫と手合わせしたいのに!!
「まぁ、いいや。さっさと倒しちゃえばいいんだ。」
そうだ、この白い頭の男をさっさと倒してしまえばいい。
ニコニコとした糸目でなんかムカつくけど、かもし出される雰囲気はその強さを表してる。
「て、ことで。純聖、いきまーす!!」
そう言うなり俺は地面を蹴り、かなりの速さで九鬼の胸元目掛けて踵から蹴り込んだ。
相手の実力を測るには本気をぶつけるのが早い。
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【九鬼】
何やら先にボクがおチビくんの相手をしないといけないらしかった。
合宿自体もめんどうなのに、ここに来て子供の相手か。
ま、見た所鍛えられてはいそうだし、準備運動ぐらいにはなるかな。
そんな事を思っているとおチビくんは急に胸元に蹴り込んできた。
それを片手で受け止めると、薙ぎ払うように放り投げたが、彼は身を翻し見事に着地した。
「仕方ないから遊びに付き合ってあげまちゅヨ〜♪」
ワザと彼を挑発するような言葉を投げかける。
イラっとした表情をして再び攻撃を仕掛けてきたが、受け止めるまでもなく避け続けた。
身のこなしは大人にも匹敵するものがあるだろう。
寧ろこの小さい身体を生かした動きをしている。
ただやはり身体の大きさもあってか、威力はそこまで感じる事ができない。
それでもなゆゆよりは強いとは思うケド。
イタズラに微笑みながらおチビくんの攻撃をかわしていく。
将来有望、鍛え上げればかなりの逸材であろう。
欲望にも忠実、子供ならではの無邪気さ…ただ少し感情が表に出過ぎてる。
まぁその屈託の無さも彼の長所なのかもしれないが。
ボクも昔はこんなだったなと、妙に懐かしくなってしまった。
「そんなことじゃ左千夫クンを倒したボクは倒せないぞ〜?」
尻を叩くような仕草をし、更に彼を挑発する。
本気を出してもらわないと、こちらはウォーミングアップにもならないのだ。
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【純聖】
ムカつく。
確実に軽くいなされている。
やっぱりこのままじゃきついか。
俺は九鬼と距離を取って靴を脱ぎ捨てた。
それから、胸に掛っているロザリオを握り締める。
「解除!!」
俺達の様な高い能力があるものは大体リミッターをつけて貰っている。
そうしないと直ぐに体力が尽きるからだ。
俺と幸花は能力をフルに使っても大人に引けを取らないほどスタミナがあるけど、左千夫によってこの形式にされている。
能力を使うべき場所を考えろ、と言われたが実際よくわからない。
それからも暫く攻防は続いたが向こうも解除してしまうとまた同じだ。
仕方なく嫌ほどいつも言われているフェイントを織り交ぜていくと少しはマシになってきた。
が、ムカつく!
完全に子供扱いされている。
俺はグッと眉を寄せたまま構えに入った。
そのまま鉄壁に手を両手を触れさせると鉄パイプを作りあげていく。
そう、これは俺の能力の一種。
そして、俺の戦闘方法は武器を問わない。
その辺にあるものをいつも応用して生き延びてきた。
それで殴りかかそうとした瞬間驚く言葉を相手が放った。
「そんなことじゃ左千夫クンを倒したボクは倒せないぞ〜?」
左千夫を倒した…?
嘘だ、左千夫は俺達の中でも最強だ。
こんな、チャライマフィアになんか負けたりしない。
ちらりと左千夫を見上げたが左千夫はいつものように笑っているだけだった。
「う、嘘だ!!左千夫は負けたりなんかしない…!!」
「決めつけは良くないネ!左千夫クンはボクに負けたんだよ。
キミも奴隷は奴隷なんだから、ご主人様に逆らっちゃ、いけないよね?」
そう言って九鬼は笑みを浮かべた。
その笑みが余りにも研究所に居た時に向けられていた瞳に似ていたので背筋がぞっとした。
鉄パイプを持っている手が震える。
「ふざけるな!!マフィア風情が!!」
能力も体術も前回に解き放つ。
そのまま鉄パイプを投げつけると直ぐに二本目、三本目を生成した。
九鬼に避けられた鉄パイプは壁に刺さる。
そのままま彼に殴りかかるとかわされたので壁を蹴るのではなく、刺さった鉄パイプを足場にして彼に飛びかかる。
これで距離が縮まったのでそのままパイプで九鬼を突き上げた。
左千夫がこんな奴に負けたなんてでたらめだ。
それを証明するためにも俺は負けない。
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【九鬼】
おチビくんの能力は何かはわからないが、鉄からパイプを作り上げた所を見ると、能力で何かを武器に変えれることができるらしい。
ボクと同じような能力かもしれないが、少し違う気もする。
彼はボクの挑発にまんまと乗ったのか、怒りを露わにした。
おチビくんみたいな「研究材料とされてきた子供」は、今まで散々見て来た。
幼い頃から研究施設に入れられて、様々な拷問に似た実験をされる。
そこで息絶える者、生き延びる者。
おチビくん達は生き延びて来た側だ。
ボクは直接こういう子達に手はかけてはいないが、その研究者の上に立つ「飼い主」という存在は一番許されない悪だろう。
マフィア風情と言われても仕方がない。
怒った彼に投げつけられた鉄パイプのスピードは、集中して避けなければ突き刺さってしまっていただろう。
本当に末恐ろしい少年だ。数年後が楽しみで仕方がない。
攻撃を避けると彼は刺さった鉄パイプを足場にし、その勢いで鉄パイプで突き上げて来た。
腹に当たる前に両手で防いだが、そのまま後方へと吹っ飛んでいく。
その時感じたが、この鉄パイプ、異様に熱い。
グローブの上からでも感じられるという事は、特殊能力は熱関係。
そこからこのパイプを作り上げたということだろうか。
あまり長く持ってはいられないだろうと感じ、鉄パイプごとおチビくんを右方向へと吹っ飛ばした。
そこになゆゆがいるとも知らず…ってのは嘘だけど。
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【純聖】
「うっあ!―――つーか、邪魔だ!避けるくらいしろッ!」
ウエイト差が激し過ぎる為にそのまま投げ飛ばされてしまった。
俺の鉄パイプは高熱な筈。
それを弾き飛ばせると言うことはあのグローブは特殊なものだろう。
俺はまた体を翻して壁を蹴ろうとした…が。
そこにはナユタが居た、しかもあわあわしてる。
邪魔だ、つーか退けよ!!
仕方が無いのでそのまま足場にしてやる。
高熱の足でナユタを蹴ってそのまま九鬼へと飛んでいく。
はっきり言って俺が本気だったら今、俺の足が触れた時点でナユタは死んでいる。
そう、俺の手足に触れた時点で九鬼も終わりだ。
アイツは俺の能力に気付き始めている、でもまだ全てを分かっている訳ではない。
触れようとしてはばれてしまう、俺はもっていた鉄パイプを小さい丸い弾へと変えた。
高熱のそれを両手にいっぱい持つとそれを九鬼に向かって投げつける。
同時にもう一度地面を蹴り、棒状の武器を作りあげ、それを手に持ち、弾に混じって九鬼へと飛んでいく。
数度棒で殴る様にしてから、胸倉を掴みかかる。
しかし、これはフェインとで、俺はそのまま九鬼の顎に指を触れさせようとした。
その、瞬間。
九鬼の表情が一気に変わった。
直ぐに殺されそうなプレッシャーに思わず喉が鳴る。
しかし、触れれさえすれば…!
「―――いい加減にしなさい。」
冷たい凛とした声とともに左千夫が槍と一緒に俺達に割って入った。
そこで初めて気づいたけど地面から岩が俺に向かって伸びてきていた。
これが、九鬼の特殊能力。
その岩は左千夫の槍によって砕かれ、俺の手首を左千夫が掴んだので慌てて能力をひっこめた。
左千夫の手がジュ…と音を立て肉が焦げる音がする。
「だって……―――いって!!もう!左千夫のバカ!!思いっきりなぐることねーじゃん!!」
左千夫はきっと手を火傷しただろう、謝罪しようかいい訳しようかかんがえている最中に槍の柄で思いっきり頭を叩かれた。
九鬼の奴も思いっきり殴られていた。
そして、左千夫は盛大に溜息を吐く。
「純聖…何度も言ってるでしょう。貴方の能力は強力だ。今、それを使うときですか?
これは訓練です、殺し合いでは無い。
それから、九鬼。もう一度言います、これは訓練です。貴方の暇つぶしでは無い。」
俺が何か言い返そうとしたが、凄みのある表情で睨まれたので唇を尖らせるだけに終わった。
こうなったら盛大に拗ねてやる…!
そう思った瞬間、左千夫が再び構えた。
「仕方ありませんね。久しぶりに揉んであげますよ、純聖。
九鬼は那由多君の相手を、ちゃんと基礎を教えてあげて下さいね。
那由多君、さっきの純聖と九鬼みたいに動いてくださいね。」
左千夫が相手をしてくれる。
それだけで俺の機嫌は直った。
ナユタは少し離れたところでまだ熱そうにもがいていた。
アイツ本当に大丈夫か…。
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【千星那由多】
俺は副会長と純聖の闘いをただ見ているだけしかできなかった。
というか見るのも結構必死だった。
あの少年はかなりすごいんだろう。
そりゃあ俺がよわっちょろいと言われても仕方がないなと肩を落とした。
そんな事を考えながらぼーっとしていると、いきなり純聖がこっちにぶっ飛んでくる。
ぶつかるかと思いきや、俺の腹を足場にして再び副会長の元へと飛んでいった。
俺は後ろにぶっ倒れたが、その倒れた痛みよりも、純聖が触れた部分が…熱い!!!
焼けるような痛みが腹に響き、制服が焦げている。
今は真夏だが、(裏)生徒会の白いジャケットを羽織っていて、これは特殊素材でできているものなので簡単には傷がつくことは無い。
けど、その上からこの熱と痛みだ。
俺が腹を抱えながら転げまわっている内に、副会長と純聖の手合せは会長が間に入って終わっていた。
どうやら二人ともこっぴどく叱られたようだった。
その後純聖は会長と、俺は副会長の手合せとなる。
副会長は会長に殴られた頭を擦りながら尻もちをついている俺へと手を伸ばしてきた。
「左千夫クン酷いよネ〜鬼だよ悪魔だヨ!」
そんなことを小声で言いながら俺を起き上がらせると、イタズラに笑う。
「なんか半端にやってると怒られちゃうみたいだから、なゆゆも頑張ってネ。
あ、でも今は特殊能力使うの無し。あくまで基礎的な物見たいから」
グローブを嵌め直すような仕草をしたが構える気配はなかった。
リコール決戦では対峙した相手だが、あの時は俺も必死だったので自分がどうやってこの人と闘っていたのか覚えていない。
あの時は副会長が言う様に特殊能力のおかげで一時的に基礎体力があがっていたこともあって、本当に俺の力かと言われるとそうではなかった。
確実に特殊能力が使えない俺は、この人の足元にも及ばないだろう。
「…わかりました。お願いします…………解除」
久々にアプリを開き、携帯を展開させた。
剣の小さな重みが腕に伝わってくる。これを握るのも久々だ。
そしてすっと剣先を棒立ちの副会長へと向けた。
「ほんとなゆゆに不釣り合いな武器だネ。じゃ、お先に」
そう言って笑うと、手始めに副会長が地面を蹴り右方向から殴りかかってきた。
それを剣の腹で受け止めるが、副会長はそのままの状態で動かない。
「吹っ飛ぶから気をつけて」
イタズラに笑いながら副会長が呟くと、拳を押し込むように剣ごと俺の身体を吹っ飛ばした。
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【神功左千夫】
純聖は性格こそこうだが根は真っ直ぐな少年だ。
それでも研究所から連れて来た時は能力的にも精神的にも不安定で中々押さえこむのに苦労した。
彼の能力は体温の変化。
と、言っても生易しいものではなく、両手足を鉄を溶かせそうな程まで熱くしたり、逆に水を凍らせる程冷たくしたりできる。
そして、素手、素足で触れたものの分子を揺らし熱くしたり、逆に冷たくしたりできるので実戦で彼に触れることは命取りだ。
触れられれば最後、肉体が破裂するだろう。
そして、その技を九鬼に向かって繰り出そうとしていたのだから、本当にまだまだ精神面が成長していない。
殺し合いになると経験値の差で間違いなく純聖の負けだ。
其処を分かってないのもまだ子供だからだろう。
ときには命を掛けて戦わなくてはならない時もあるが今はその時ではない。
僕の傍で構えている純聖、僕は棒術が一番得意なのでそれを教え込んで行く。
基本的な構えから、隙の付き方、捌き方。
僕も純聖の作った鉄パイプを手にし、打ち込んでくる純聖の鉄パイプを弾く。
しかし、純聖の動きが急に止まった。
「そうそう、また成長しましたね。……?純聖?どうかしましたか?」
「……なぁ。本当にあんなやつにまけたのかよ。」
その視線の先には那由多君を壁に吹っ飛ばした九鬼の姿が有った。
そう言えばそんなことを言っていた気がする。
本当に余計な事を言ってくれる。
「純聖…。お前に取って負けとはなんですか?」
そう問いかけると彼は黙り込んでしまった。
子供には難しい問いだったかもしれない。
更に僕は言葉を続ける。
「もし、僕が彼に負けたなら、オマエは僕を見そこないますか?」
「そ、そんなわけ…!!…そんなわけねーよ。左千夫は俺の恩人だからな!一生、お前に俺はついてくんだ!!」
「…ありがとうございます。と、言いますかついては来なくていいです。」
そう言うと純聖はいつものように唇を尖らせて文句を言い始めた。
それを見て小さく笑うと彼の頭を撫でてやる。
「負けてもいいんですよ。僕の場合は負けても死ななかったらいい、死んでも全てが有利に動けばいい。そう言う信念さえ持っていればそれでいいんですよ。誰かを守りたいでもいい、何かを得たいでもいい。お前もそういったものを早く見つけなさい。」
少しだけ大人しくなった純聖の頭を撫でていると次は違う方向から文句が飛んできた。
「もー!相手になんないんだけど!ボクと戦った時はまぐれだったのかな?あれ?
左千夫クンはなゆゆのどこに目を付けて(裏)生徒会に入れたの?」
その後数度組みあったようだが余りの扱きがいの無さに九鬼が折れたようだ。
僕に質問してきたのだが答えは決まっている。
「彼の書く字です。」
「違うって!戦闘面でッ!」
「そんなものはありません。」
「じゃなくて、って、ええ!?」
「僕は元から那由多君を戦闘要員とは考えていませんよ。いませんでした、と、言う方が正しいですが。
地区聖戦の存在をイデアが教えてくれていなかったので、全くそんなことは考えず勧誘しましたが…。
何度か一緒に訓練しましたがこれと言った素質も感じません、なので全体的な体力アップを目的としてたのですが。」
それからも淡々と告げていたが那由多君から負のオーラを感じたのでそこで止めておいた。
僕は自分一人が戦えばそれで済むと思っていたので本当にその面は考えずに那由多君を勧誘した。
彼の潜在能力の面に関しては未知数なモノが多い。
そこに目を付けたと言えば嘘ではないが、それは鍛えてどうなるものではない。
それを言おうとしたときに九鬼によって遮られてしまった。
「それよりも、左千夫クン相手してよ。その子のせいでボク昂っちゃった♪」
言うなり、九鬼はグローブを直して僕に飛びかかってくる。
仕方なく僕は鉄パイプを立てかけてあった槍にぶつけてこちらに飛ばす。
それを手にすると構えた。
「純聖は、那由多君に基礎を教えてあげて下さい。くれぐれもやり過ぎないように。」
そう告げながら九鬼の拳を柄で受ける。
いつ受けても骨に響く拳圧で心地よい。
純聖は一瞬嫌そうな顔をしたが素直に那由多君の方へと言ってくれた。
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【千星那由多】
副会長とは話にならないぐらい相手になれなかった。
そもそも特殊能力の無い俺なんてただの凡人にすぎない。
そんなことよりも、途中副会長が尋ねた質問に答えた会長の言葉に、俺は衝撃を受けてしまった。
戦闘要員とは考えていません。
…え?
確かに何故俺が会長に(裏)生徒会に勧誘されたのかは気になってはいた。
見るからに運動も頭も良くない俺に取り柄なんてない。
そしてその勧誘の理由が俺の「字」だったことにも驚愕した。
やけに俺の字が好きそうだったのはそのせいだったのか。
確かに最初は(裏)生徒会に入れられたことはめんどくさかったし嫌だったけれど、それなりに会長は俺の事を考えてくれているのだと思っていた。
みんなと出会えてよかったし、少しずついい方向に変われていけていることにも感謝している。
体力も最初よりはついたし、自分一人の力ではないけれど、死闘のようなものだって乗り越えてきた。
…それなのに、あんまりだ。
ぐるぐると頭の中が負の思考が巡り、重くなっていく。
そんなことを気にも止めていない副会長は、さっさと会長の方へと行ってしまった。
その行動にも落ち込んでしまった。
悪い部分を教える事さえもしてもらえない。
それほど俺はここには「不必要」な存在なんだと思ってしまう。
そもそも、「戦闘要員」として見られていると勝手に思い込んでいた自分も悪いんだろう。
なんだか一気に気が抜けてしまった。
何故俺はここでこんな事をしているんだろうか。
落ち込んでいると、純聖がこちらへ向かって来た。
かなり嫌そうだったが、会長の言うことだから断れないのだろう。
沈んだ顔をしているであろう俺をちらりと見たが、そのまま「ついてこい」と言われたので重い足取りで彼の後を追った。
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【純聖】
ナユタが後ろからついてきてるいるがなんか暗い。
こういうとき俺はどうしたらいいか分からない。
さっきからチラチラ後ろを振り返っているが溜息しか聞こえない。
つーか、俺が教える側かよ…。
色々悩んでいると訓練施設の外に出た。
調度よさそうに木が切り開いているところに出ると俺はナユタを振り返った。
「ナユタ。お前の特殊能力見せてみろよ。」
俺がそう言うとナユタは渋々だが剣を構えた。
他のメンバーの特殊能力は知っているがナユタのものはしらない。
資料には強い武器を与えてあるとの表記だったが本当はそうじゃないようだ。
珍しい能力だから政府に伏せている、と、左千夫が言っていた。
これでムキムキになるとかだったらまだ使い様はあるかもしれないけど、木の声を聞くとかだったらどうしよ。
そう思っているとナユタは宙に‘火’の文字を書いた、そうすると其処に球体の火が浮かび上がる…。
浮かび上がる…!?
そして、それがそのまま剣に纏わりついていった。
「お、お前、そんなこと出来んのかよ。ほ、他は!!!」
「……水とか簡単なものならなんでもできるけど。」
やばい。
スゲー格好いい能力じゃないか!
俺みたいな地味なやつじゃなくて、ヒーローとか戦隊ものとか!!
しかも、色んな属性を使えるなんて一人で五役できるってことだろう!
不覚にも俺は目を輝かせてしまった。
しかし、直ぐにはっとして、一つ咳払いをする。
「えー、と。次は素ぶりして。」
そう言うとナユタは剣を振って見せてくれたけどこっちは全然。
「……ナユタってちゃんと、毎日剣振ってないだろ。
まだ、型ができてない。
俺は剣士じゃないからな、あんまり詳しくは教えられない。
つーか、ここには剣士居ないから誰もお前に詳しく教えられないんだろうけど。」
そうなると訓練方法だ。
悩むな、教えるってことは苦手だし、出来れば遊びたい。
俺はその両方を兼ね揃えた遊びを思いついた。
「そうだ、ナユタ鬼ごっこしようか。」
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【千星那由多】
しぶしぶ能力を見せたはいいが、なんだか威力が少ない。
いつもならもっと炎も大きいはずなんだけど…。
おかしいなと思いながらも純聖の咳払いで我に返り、剣に纏った炎を消した。
素振りなんかは特に誰に教えて貰ってもいないので、ほぼ我流だ。
力はそれなりについてはいたが、目当ての物にぶつけるぐらいしか俺はできない。
もちろん毎日剣も振っていないし、純聖の言われた言葉に俺の努力も全然足りないのだな、と再び気が沈んでしまった。
純聖は訓練の提案をしてくれたが、気分が落ち込んでしまってあまり気乗りがしない。
めんどくさいとかそう言うのじゃなく、こんなことをしてする必要が俺にはあるのかと、小さくため息をついたが、やらないわけにもいかなかった。
「わかった…お願いします」
俺の元気の無さは確実に伝わっているだろうが、純聖は少し黙った後ルールの説明をしてくれた。
「…ルールは簡単、俺もお前もなんでもあり。勿論特殊能力で攻撃をしてもいい。
ただし、俺はお前を攻撃したりはしない、ただ執拗に追いかける。そして触れられたら負け。
つーか、俺に触れられたら分かってるよな?」
そう言って差し出した手は蒸気が放たれていてとてつもなく熱そうだ。
副会長との戦いを見ている限り、鉄も変形させれるくらいの能力なんだろうから、それに触れられたらお終いだろう。
「うん…」
「…じゃ、10数えるから逃げろよ」
そう言われたので、俺は剣を掲げたまま走り出した。
数を数えている純聖の声が遠くなっていく。
場所が開けていて、すぐ側に隠れるような場所はないので、とにかく走るしかない。
「…9ー……10!!」
最後の数を数え終わった声が響いた、途端に後ろを振り返るとかなりの速さで俺を追いかけてきているのが見える。
さっきの闘いを見ていてもわかってはいたが、やっぱり速い。
俺の足じゃ確実にすぐ追いつかれるだろう。
とにかく接近すると確実に危ないのはわかっているし触れられてしまうので、走りながら剣先で水と言う字をいくつも宙に綴った。
それが水の塊になると、打ち付けるようにして純聖の元へと飛ばす。
もちろんそれは軽々と避けられたが、多少の足止めにはなるだろうか。
走りながらはかなりきついが、あの手に触れられて大火傷するのは嫌だ。
にしても、やっぱりいつもより威力が無い気がするんだけど…。
久々すぎて感覚忘れてんのかな。
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【純聖】
「おっと。…んとに水も出せんだ。」
俺はこの時ちょっと見直しかけていた。
自然エネルギーを生み出すことはかなり高度だ。
しかも人体から派生させる、静電気や蒸気などは分かるけどナユタは本当にまっさらな状態から火や水を産みだしてる。
左千夫はこれをみこんだのかもしれない…けど、威力は無い。
当たっても大丈夫そうだけど念のために避けながら距離を詰めようとする。
やっぱり避けながらは中々追いつけないみたいだ。
これなら俺の体力作りにもなる。
そのまま追いかけていくと山の中へと入っていく。
視界が悪くなるけど足場が増えるので動きやすくはなる。
木を蹴る一瞬だけ能力を引っ込める。
そうすれば足場を燃やさずに跳ぶことができるからだ。
そうやってジグザグに進んでナユタの前に出る。
ナユタはきょどって居たが俺は上を指差した。
「木の上走ろうぜ、ナユタ。鬼ごっこがもっと楽しくなるぜ!
そうしたらもっと、レンジャーっぽく、じゃなくて、強くなれるしな。」
近くの石を長い棒へと変形させるとそのままナユタを棒で押し上げるようにして木の枝の上に放り投げた。
木に乗り上がったナユタはきょろきょろしてたのでちょっとがっかりした。
「ナユタ、堂々としてろよ!あ、そういや、ナユタの夏合宿の課題って何だ?」
俺はもっと冷静に周りを見ること、って左千夫に言われた。
今でも十分に見ているつもりだけど。
そう言うのがナユタにもあるのか、知りたくなった。
俺はナユタを見上げたまま首を傾げた。
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【千星那由多】
山の中に逃げ込んで暫くすると、純聖が俺の目の前へと周ってきた。
これでは捕まってしまうと思い後ろへ引き返そうとしたが、それよりも早く純聖に木の上へと放り投げられた。
木の上を走るだなんて芸当が誰にでもできると思っているのだろうか。
高い所が苦手な上、そんな器用なことは俺にはできない。
「ナユタ、堂々としてろよ!あ、そういや、ナユタの夏合宿の課題って何だ?」
そう言われたが、首を大きく横に降り、太い枝に捕まったまま身動きが取れずに下にいる純聖を見下ろした。
「か、課題…は、必殺技の習得…」
「必殺技!?ますますレンジャーみたい…じゃなくて、必殺技か…」
どうするか考えているのか、ぶつぶつと何かを呟いている。
今のうちに逃げてしまえばいいんだけど、太い幹の上に立つだけでも一苦労だ。
捕まって立とうとしたその時、訓練施設の方で何かが破壊されるような音が響いた。
木の上から施設の方を見渡すと、何かが施設の屋根をぶち破ってたのが見えた。
「なんだ…あれ…」
「どうした?何があった?」
音を聞いて純聖が別の木の上へと登り、同じように施設の方へと視線を向けた。
それはぐるぐると施設周辺を飛び回った後、何か光線を放ちながらこちらへと向かって来ている。
段々と距離が近づいて来たので、目を凝らして見ていると、その物体には顔があった。
…校内にいる銅像と表情が似ている。
ただ、なぜそれが羽みたいなものを生やして飛び回り、目から光線を放っているのかわからない。
けれどこれだけはわかる。
とてつもなくアレはマズイ気がする。
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【純聖】
なんか銅像が凄い勢いでこっちに飛んできてる。
つーか、飛ぶ銅像って…ここはどんな研究をしてんだ。
しかも、中々いかつい顔をしている。
「……なんだよ、あれ!!―――わっ!あぶねぇ!!」
木の上からこちらに飛んでくる銅像を見つめていたら急に光線がこっちに向かってとんできた。
体を逸らす様にかわしたのはいいが枝が熱光線で切断されてしまった為バランスを崩す様に下に落ちた。
まぁ、これくらいなんともないので一回転してそのまま地面に着地する。
その間も銅像は俺達の頭上を飛び回っていた。
ここで作られたものなら俺達に攻撃してくる筈が無い。
これはきっとあれだ!
平穏を乱す、‘悪’だ!それか、研究施設で作られたものが暴走したかだ!!
どっちにしろどうにしかしなきゃなんねぇ!
そうだ、ナユタは調度必殺技の練習だったよな。
「ナユタ!!あれ、やっつけてよ!!必殺技!必殺技!火とかビューンっと飛ばして、ボーンってやっちゃって!!」
俺は目をキラキラさせながらナユタを見上げた。
銅像のターゲットにはナユタよりも俺が入ってしまっているさしい。
無尽蔵に光線を放っているように見せながら俺の退路を塞ぐように木々を打ち落としていた。
周りを木々で囲んでしまうと、次は俺に向かって光線を放ってくる。
戦隊ものならここでは一回、不利になっとかないといけないんだよな!
「わ…!ナユタ!……た、たすけてー!!」
くるくると転がる様に光線を避けながら俺はナユタに助けを求める。
それにしてもこの光線は当たったらかなりやばそうだ。
地面が焦げている上にかなり抉れている。
俺は寝転びながら、その抉れた地面に視線を向けた。
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【千星那由多】
「純聖!!」
空飛ぶ銅像から放たれた光線は木を切断し、純聖が地面へと落ちた。
無事に着地したみたいだったが、どうやら銅像は俺達を狙っているみたいだ。
無尽蔵に放たれる光線が辺りの木々を破壊していく。
あれは一体なんなんだ?またイデアの差し金かなんかか?
どうしようかとその銅像を目で追っていると、下にいる純聖から声がかかった。
「ナユタ!!あれ、やっつけてよ!!必殺技!必殺技!火とかビューンっと飛ばして、ボーンってやっちゃって!!」
ビューンってやってボーンって……こういった部分の表現が子供らしいな…なんてそんなこと考えてる場合じゃない。
…必殺技。イデアに言われたのは「火之矢斬破(ヒノヤギハ)」だったっけな。
漢字からして火系の必殺技か?
スタンプラリーの時にみんながやっていた事を思い出す。
集中すればいいんだろうか。やっぱ必殺技と言えば威力を拡大させるわけだから、火が大きくなればいいんだよな?
頭でつらつら考えていると、純聖から聞くとは思っていない声が聞こえた。
「わ…!ナユタ!……た、たすけてー!!」
「!!!」
明らかに銅像の光線は純聖を狙っていた。
この狭い木々の中で退路が塞がれてしまうのも時間の問題だ。
俺が…やっつけるしかない。
視線を飛び回っている銅像へと戻した。
集中しろ那由多。
俺は、必要ない存在なのかもしれないけれど、それでもここにいる以上は自分のできることをやるべきだ。
別に戦闘要員じゃなくてもいいじゃないか。昔の俺ならそれで満足してたはずだろ?
「…………」
だめだ、集中できない。
眉を顰めると、ぐっと剣を握りしめ、火という文字を綴り剣へと炎を纏わせた。
やはり威力が少ない。こんなんで必殺技なんて――。
そう思った時、飛び回っている銅像の動きが止まった。
赤く光る瞳が、一点へと集中し、真下の純聖に照準を合わせている。
やばい、でかいのが来るパターンだこれ。
下にいる純聖は俺を見ていた。
期待をしているのか助けを求めているのかはわからない表情だったが、そこにいるのは俺よりも小さな少年なんだ。
……あーもう!!どうでもいいよ!!!もう、なんでもいい!!!!
考えるだけ損だ!!!今は純聖を守らなきゃいけないだろ!!!!!
銅像が大きく反りかえった瞬間、俺はイデアに言われた必殺技の文字を綴った。
火之矢斬破という炎の文字が宙に浮かんでいるのを見据えた。
この必殺技の正解なんてものは俺は知らない。
でも今までだってそうやってやってきただろーが!!!
唇を噛みしめた後、大きく息を吸った。
小さく唇を開き、言葉を放つ。
「……火之…矢斬破!!!!!」
綴った文字が勢いよくはじけた。
その勢いで俺は木の上から足を滑らせてしまう。
――――失敗したか…?
地面へと落下していく瞬間に、弾けた炎へと目をやった。
良く見るとそれは、無数の炎の矢になって銅像を目がけて勢いよく飛んで行っている。
それと同時に馬鹿でかい光線へとぶち当たり、空中で光が拡散した。
炎の矢も同時に消えてしまったが、これはうまくできたと言うことでいいのだろうか?
よかった…。
つーか俺……落ちてるうううううう!!!!!!
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【純聖】
キラキラとナユタを見つめていると、「火之矢斬破!」の言葉と共に、炎の矢がナユタの剣から繰り出される。
――――これ、いい!!!!!!!
俺の心の中はそれでういっぱいだったがなんにせよ、ナユタが格好悪い。
自分の必殺技の勢いにぶっとばされてやんの。
銅像から俺にくりだされたえげつない光線はナユタによってどうにかなったみたいだけど、今度は銅像そのものが俺に向かって突っ込んできてる。
仕方ないな、俺が片付けるか。
ヒーローにも手助けが必要だもんな。
そう思って俺は銅像の降下の先へと入り込んで拳を握る様にして構える。
那由多と同じ、必殺技って言うのを俺もやってみようと思う。
と、考えていたら視界に那由多が入った。
「純聖危ない!!!」
ナユタはそう叫びながら俺を抱きしめる様にして地面に倒れ込んだ。
正直余り人と触れ合ったことのない俺の体は硬直したし。
これだけ色々な能力を見せてもこいつは俺のこと気持ち悪いとか、触れたくないとか思わないのか?
色々な疑問が浮かんだがどうやらナユタは俺の能力を忘れているらしい。
「ナユタ、俺の能力忘れてるだろ。」
ナユタが俺に覆いかぶさる形で地面に倒れ込んだ。
ナユタの背中を目掛けて銅像が突っ込んできている。
銅像が何の素材で出来ているかは分からないが俺の特殊能力はゆうに1000度を超える高熱を出すことができるんだ、あんなもの溶かすことに造作は無い。
遠距離に持ち込まれると苦しいんだけどな。
俺は掌を銅像に翳し、調度インパクトする瞬間に特殊能力を発動させた。
「ヒートヒュージョン!」
銅像がドロドロに誘拐されていく、そのままだと俺達に掛ってしまうので手を横に振る様にして倒れた木々に向かってそれを投げつけた。
それから、ナユタにむかってニィっと笑ってやった。
「まだまだ、だな!ナユタ!俺の勝ち!!」
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【千星那由多】
俺が落ちて行くと同時に、銅像が純聖めがけて落下してきた。
光線自体は破壊できたものの、本体は完璧に無傷だ。
「純聖危ない!!!」
調度真下にいた純聖を抱きしめるように地面に落ちたが、そう言えばこいつの能力のことを忘れていた。
純聖が何かを叫ぶと、あっと言う間に向かってきた銅像を能力で溶かしていく。
背後で高熱によって溶けて行く音と熱が伝わってきた。
一気に溶けてしまったそれを、辺り一面に振りまくと、もう銅像は跡形もなくなっていた。
「まだまだ、だな!ナユタ!俺の勝ち!!」
そう言われて純聖に顔を向ける。
笑った顔はこの場を楽しんでいたかのような、そんな表情だった。
その表情で、少し心が軽くなった気がした。
なんだかんだ、俺の必殺技の手伝いをしてくれていたんだろう。
ここは感謝するところだな、とつられて呆れたように笑うと、辺りから何か音が聞こえる。
それと共に焦げ臭いが漂ってきた。
純聖から離れ、周辺を見渡すと木々が微かに燃えている。
俺が放った拡散した炎と、純聖の溶かした銅像が火の元だろうか。
「うわあああ!火事んなる!火事ッ!!」
俺は慌てて立ち上がり、宙に水という字を綴る。
火を消しながら、確実に戦闘向きの能力なのに使う人物が俺じゃ、使い方もしょぼくなるなと思いながら、辺りに水を撒いて行った。
それにしてもあの銅像は一体なんだったんだろうか…。
■Mission No.51「パンツで仲直り」
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