【三木柚子由】
肝試しの競技は日が暮れてからと言うことになったのでくっきーさんのお誘いで麗亜の皆さんも一緒に夕食を食べることになった。
先にくっきーさんが用意した風呂で皆汗を流した。
私服に着替えて食事の用意が出来ている部屋へと向かった。
ブッフェスタイルに置かれた料理はどれも新鮮で、美味しそうなものばかりだった。
ちゃんと、デザートまで用意されているし、取れたての海の幸や高級そうなお肉は実演までしてくれていた。
私は純聖君を追いかけるので大変だったけど、机も別だったからか特に何も問題は起きなかった。
それからは競技まで休憩時間となった。
そこでイデアちゃんがこれからの肝試しのことを説明してくれる。
「今日の肝試しの競技内容ダ」
◆◆肝試し◆◆
・決められたルートを愛輝凪の一人、麗亜の一人計二人一組で回る。
・多少ならば脅かすのは有りだが、戦闘は無し。
・心拍数の乱れた回数が多い方が負け。
◆◆組み合わせ◆◆
・幸花VS不破
・純聖VS秋葉
・弟月VS電童
・夏岡VS堂地
・天夜VS黒部
・千星VS華尻
・日当瀬VS百合草
・三木VS園楽
・神功VS鳳凰院
・九鬼VS西園寺
「以上ダ。簡単ダロウ。」
左千夫様が窓から外を見たまま固まっていた。
大丈夫かな。
イデアちゃんは態とこの競技を入れた気がする。
場所ははクッキーさんの別荘の裏側にある裏山で行われる見たい。
そして、海の見える丘まで行って、そこの鐘を鳴らして帰ってくると言うもの。
ルート表を見てみたけれど、今のところ違和感は無い。
私はそっと左千夫様の後ろに行った。
「…大丈夫ですよ、きっと。」
大丈夫だと伝えようとしたのに左千夫様は余計に硬直してしまった。
……言い方間違ったかな。
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【幸花】
お腹がいっぱいになったから眠い。
けど、競技の肝試しがあるので眠い目を擦りながら裏山へと向かった。
色んな鳥さんや虫さんの声が心地よい。
左千夫は何か考え事をしているのか、道中話しかけても返事をしてくれなかった。
柚子由には夜道は気を付けてねと言われたけど、暗い場所は昔に散々味わったので慣れている。
あほエロナユタはどうやらお化けが苦手みたいで、小さな物音にもびくびくしていた。
やっぱりあいつは根性無し。
私の相手はヤンキー女だった。
何かあったら守ってやるぜ!とか言ってるけど、私はお化けなんて信じてない。
だからまったく怖くなんかない。
そもそも今から行われることは、どうせヒューマノイド達が用意した偽物ばかりだ。
それぞれ地図と懐中電灯のみ手渡される。
月は出ているけれど、少し雲がかかっていて足元はなんとか見えるぐらいの暗さだった。
「それデハ、幸花、不破、出発シテください」
麗亜高校のヒューマノイドにそう言われると、私とヤンキー女は歩き出した。
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【不破紗耶佳】
流石マリア。
真っ白い手が出てきたり、上から生首が落ちてきたりと手の込んだ作りだ。
相手のヒューマノイド、イデアとか言ったっけな、そいつもかなりの遣り手なんだろう、隙を見せていると一気に持って行かれそうだ。
横の幸花とか言う子は物怖じしない性格なのか全く表情に変化が無かった。
「折角だからお姉さんが、怪談話でもしてやろうか?」
アタイが屈むように話しかけても幸花って子は反応しなかった。
それから色々な話をしてみたが一向に幸花の変化は無い。
自分の記憶している中で一番怖いものを話してみる。
つーか、これを話すことによってアタイの心拍数が上がってしまうので反応してくれないと割に合わない。
その話をしていると急に幸花が止まった。
「お?とうとう怖くなったか?」
「鐘……鳴らして?」
そう言って幸花がアタイを見上げてきた。
とうとう、怖くなったようだな!
これできっと帰りは手を繋ぐような展開になるだろう、ここはアタイがやる大人ってことを見せないとな。
アタイは胸をポンっと叩いて快く頷いた。
「勿論構わないさ、ここで待ってな。」
そう言って前を見た瞬間アタイは後悔した。
小高い丘に設置している鐘までの道のりだ。
其処には魑魅魍魎と言うべきか色んなものが居る、いや、これはなんと言うか、怖いと言うよりはこの道のりを超えて鐘を鳴らすのが至難の業なのではないのか。
ゾンビ的なゆらゆらとしながら化け物たちが歩いてきてる。
アタイは仕方なく拳を構えた。
「やるしかねぇな。」
そう、格好いい、大人を見せてやんなきゃいけねーんだ。
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【幸花】
どうやってお化けを作ってるんだろう。
自分でもこんなものを作って純聖を怖がらせてやりたいという気持ちが沸いてくる。
ヤンキー女が怖い話をしだしたけれど、全然怖くなかった。
血まみれの生徒だの、部屋の隅に居座るこどもだの、そういう類の物なら実物を見た事だってある。
もちろん血まみれになってるのは私だけど。
私が怖い物って何だろう。
研究施設にいた頃は怖い思いをいっぱいしてきたけど、もう過去のことだと割り切れている。
今あんな所に連れていかれたとしても、怖いと感じるだろうか。
それよりも、もっと怖い物。
左千夫、かな。
温もりを一度知ってしまうと、それが無くなる時が一番怖いんじゃないだろうか。
他の事なら大抵耐えられるけど、これだけは絶対に耐えれる自信がない。
そんな事を考えながら歩いていると、鐘が見えてきた。
うじゃうじゃとゾンビみたいな生き物が鐘に続く道までたくさんいる。
面倒だったのでヤンキー女に鐘を鳴らすように頼んだら、あっさり了承してくれた。
激しい運動をしたら心拍数もあがるってことをわかっていないのか、能力を発動させている。
ヤンキー女は大量のお化けたちを拳圧でバッタバッタと倒していった。
中には本物の人間もいたのか、その勢いに逃げ出している様子を見ながら、あくびをしながらじっとその場で待つ。
「よし!鳴らすよ!!」
全員なぎ倒した所で、ヤンキー女が鐘の紐を持った。
鳴らそうと勢いよく引いた所で、またそこから大量の蜘蛛が落ちてきたのが見えた。
ああ、あれは怖いっていうより気持ち悪いかも。
そして、辺りに鐘の音が響き渡ると、蜘蛛にまみれたヤンキー女がこちらへと帰ってきた。
ナチュラルに手を差し伸べてきたけれど、それを無視し、スタート地点までの帰路を歩き始めた。
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【純聖】
『十分経ちました。次、純聖、秋葉ペア、スタートしてください。』
ブレスレッドからマリアとか言うヒューマノイドの声が響く。
一人目をコールした後にそいつも闇の中に消えちまった。
こっからは指示はこのブレスレッドを通して行われる様だ。
それにしても暗い。
俺のペアの奴もなんか陰気だし。
暗いことばっかりだ。
あー、さっさと、終わらねぇかな…。
「ヒィ!!!な、なんか落ちてきたッ!!!」
「なんだよ、気安くさわん―――わー、手、手!!手だけ!!!ぅわー!!!」
「……な、なんか、飛んでる、なにあれ!なに!!!!?」
これだけ俺が横で騒いでるのに、横のオタクは「デュフフ」と眼鏡を光らせて笑うばかりだった。
お前が一番怖い!とは言えなかったけど。
つーか、俺、こういうの駄目なんだよ!!
くるならはっきり、分かりやすくなってから来いよ!!
手だけとか、足だけとか、肌の色がおかしいとかもういい加減止めて欲しい。
一定のペースで歩く秋葉の後ろを俺はトボトボと歩いていく。
そして、その服の裾をギュッと握り締めた。
「べ、別に怖い訳じゃねーぜ!た、ただ、お前が迷子になんねーよーに掴んでんの!!!!」
その時ゴーンと言う鐘のけたたましい音が鳴り響き俺は、更にその服を握り締めた。
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【秋葉文子】
お化けは怖い、けどそれ以上に萌えてしまうのが拙者である。
あの男のお化けは死んでもなお恋人(♂)を思い続ける浮遊霊。
手を切断され、足が無くなっても、会いに来るなんてどんな純愛ですかデュフフ。
行く手を阻んで来る兵士のような男の幽霊達も、多分三角関係なんだろうなぁと思えば全く怖くない。
寧ろ新しいジャンルであります!!
ショタ君の事をすっかり忘れて、ネタ帳に必死でメモを取っていたら服の裾を掴まれた。
我に返り振り向くと、ツンデレ台詞を吐いているショタ君に目を見開いた。
ふおおおおおおおッッ!!!
何と言う教科書通りのツンデレショタアアアアアア!!!!
わざとここから立ち去って怯えてるショタ君を木陰から見守りたい!!
お化けの触手に襲われるショタ君を見たい!!!
そこに誰が助けに来るのか!!
会長?副会長?とにかく男ならなんでもいいわあああ!!!!
いやいや待つのでござる、あまり取り乱すと心拍数があがってしまう。
「しっかり掴んでおくのだぞ…きっとアニマルレッドも君の頑張りを見ている!
丘の上で僕と握手!!」
ぐっと拳を握りしめショタ君を励ますと、アニマルレッドの事になると目を輝かせていた。
まぁ拙者はいじわるなので、励ますだけ励ましてここから脅かす事に専念しようと思う。
ショタ君は確か、神功会長の事を親しく思っていたはず。
アニマルレッドを使ってもよかったが、そこはまだ夢を壊したくないのでやらない。
ノートにおどろおどろしい神功会長を描くと、ショタ君が怯えながら後ろを振り返っている間に紙をトントンと叩く。
等身大になった神功会長が後ろ向きで目の前に立ったのを確認すると、急に立ち止まる。
「いてっ!なんだよ急に止まるなよ…」
「ショ…純聖君…あれって……神功会長じゃないかなぁ…?なんでこんな所に……?デュフッ」
あれが振り向いた瞬間のショタ君を想像すると、笑ってしまいそうになるが、口を抑えて我慢する。
私の後ろから恐る恐るショタ君は顔を覗かせた。
今の間に他のメンバーも描いておこう。
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【純聖】
なにぃぃぃぃ!!!
アニマルレッドが居るのか?
そういや、コイツアニマルレッド召喚できんだよな。
そう思うと一気に怖くなくなった。
周りでお星様がキラキラしている、そんな気分だ。
しかも、前に左千夫の後姿が見えんじゃん、もしかして、もうこんなとこまで来たのか?
「左千夫ー!!!ちょーはぇぇ――――…・……○△Λ※■×!!!!!!?????」
左千夫がぁ!!
左千夫の目ん玉がぁああ!!!
飛び出してる!!!!海藻が!!!頭に槍刺さってる!!!
さち、さち……!!!!
今まで見た中で一番怖い現実それからマッハで逃げようとしたら、誰かにぶつかった。
「ぶっ!!な、なんだよ、柚子由…!!てか、左千夫が……あれ、右手が……」
“イタイ……ナニスルノ……”
俺がぶつかったのは柚子由だった筈、だけど。
地をはうような女性の声が聞こえた瞬間、振り返った柚子由には顔が無かった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!!」
そのまま俺は丘の上まで掛け上げる。
次はもじゃもじゃヘアーのナユタが目の前に居た。
なゆたでもいい!だれでもいいから、俺を助けてくれ!!!
「なゆ……ぎゃあああああああああああああ!!!!!」
振り向いたナユタは顔まで天然パーマで覆われていた。
そして、愛輝凪高校の皆に会うがどれもまともじゃない、俺は盛大にえづきながら丘の上まで掛け上がった。
其処にはアニマルレッドが居た。
「た、たすけて!!!!アニマルレッド!!!!!!」
もう、アニマルレッドしか俺を救えるものは居ない。
そう思った瞬間に後ろから、左千夫みたいなのに、肩を掴まれた。
し ぬ。
しかし次の瞬間にアニマルレッドは左千夫オバケにキックを繰り出した。
そして、異空間から剣を取り出すとオバケ達をやっつけていった。
流石俺のヒーロー。
最後は九鬼のおっさんを鐘へとぶち当てて盛大な音を鳴らし、俺はアニマルレッドと帰途につくことになった。
勿論、俺の心臓は色んな意味で高鳴りっぱなしだ。
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【電童彌生】
アタシは多分、今一生分の運を使っていると思いますの。
隣にいる彼…弟月様と一緒に肝試しだなんてこんなに幸せでいいのかしら。
今日出会ったばかりの二人が、つり橋効果で結ばれるというのは良く聞く話。
きっと弟月様とアタシも……いけないわ彌生、こんなはしたないことを考えるなんて、弟月様に嫌われてしまう。
「ふふ…ふふふ……」
思わず笑いが込み上げてしまっているのも気づかずに、弟月様の横にぴったりと並んで歩いた。
たくさんお化けがいるけれど、アタシはホラーは大得意なので、別に気にはならない。
それよりも隣の弟月様の方に興味がある。
フランソワーズ二号の首をぎゅうっと締めながら、口角をあげた。
「おと、弟月様は……ホラーとかお好きですか…?
アタシはスプラッタ系が好きなのですけれども…フフ……目玉を、くりぬいたり…腸を……食べたり…。
人間の内臓って素敵ですよね…どんな味がするのでしょうか……」
頬を染めながら呟くような声で喋る。
弟月様は照れていらっしゃるのか、ぽつぽつと返事を返すだけだった。
その間にも周りには生首や、切断された手だけが地を這ってきたりと、様々な仕掛けがほどこされていたけれど、アタシも弟月様も二人の世界なのでまったく気にはしていない。
…待って、こういう時、女の子って怖がらないといけないのでは?
アタシは男性が苦手だし、こういう恋愛に関してはかなり疎いのだけれど、大体スプラッタ系で殺される女の子はみんな怖がってる。
そうよ、怖がらないといけないの。
アタシはフランソワーズ二号の頭を撫で、能力を送り込んだ。
その場に立ち止まると、弟月様はすぐにアタシの異変に気づき立ち止まる。
彼が振り向く前に、フランソワーズにアタシの首を締めさせ、なるべくスプラッタ映画の女の子のように怖がるような仕草を見せてみる。
「おど…おどづきざま……だずげ……だずげでぐだざいぃ……フランゾワーズ2号が……」
目をひん剥きながらにたりと笑う。
これで弟月様もアタシのか弱さに気づくはず。
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【弟月太一】
………さて、どうするか。
現状、心拍数を上げるなと言う方が無理な展開がする。
これは間違いなくイデアの差し金だな、と、思いながら肩を落とした。
出来れば俺は、目を抉るのも、手がもげるのも遠慮したいのだが。
眼鏡を押し上げると彼女が止まった気配がした。
何か敵かと思って振り向いてみると、そこには世にもおぞましい化け物、いや、先程までの女が居た。
ちょっと待て!それ、お前の人形だろ!
なんだ、仲間割れか?
それとも、周りのゾンビの影響でその人形がおかしくなったのか…!!!?
「だずげでぇ……」
落ち付け、弟月、これはホラーでは無い、リアルだ。
と、言うことは余計にマズイじゃないか。
このまま放っておいたら彼女は絞殺される…!!!
俺は携帯を展開し。
フランソワーズ二号の腕を切り落とす様に銃を放った。
そして、電童の手を握って走り出す。
「っち、んと、めんどくさい。さっさと、終わらすぞ。」
心拍数?そんなものしったこっちゃない。
こんな面倒な競技で入るのが一点なんて馬鹿げている。
銃でゾンビどもを蹴散らしていく。
途中、神功や九鬼も居たような気がするがあいつらが俺の銃を避けられない訳が無い。
手とか足だけで存在する物体は遠慮なくハチの巣にしてやった。
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【電童彌生】
素敵…素敵素敵素敵ッ!!
アタシのか弱い女の子作戦は成功しましたわ。
フランソワーズ二号の腕を打ちぬいた弟月様は、アタシの手を引いて一気に鐘のある高台まで走って行く。
後ろからは迫りくるお化けやゾンビたち。
映画で見たことあるわ。
主人公が恋人ヒロインを助け、森の中を逃げて惑う。
今の状況は本当にその通りの展開。
そして崖までたどり着いた二人は、逃げ道が無くなる。
絶体絶命の大ピンチに、主人公を庇ったヒロインが「逃げて!」と言ってゾンビに立ち向かっていき、彼が見守る中で内臓を抉られ脳味噌を齧られ…。
アタシがゾンビに食べられてゾンビ化したら、弟月様はきっと素直に食べられてくれるはず。
ああ、どんな味なのでしょうか。
きっととってもジューシーでそれでいて甘く…。
そんな妄想を繰り広げていると、ついに高台の鐘まで到着した。
ラストシーン。もう逃げ場はないですわ、弟月様。
「鳴らすぞ」
そう言って鐘までの道のりを、アタシを引っ張って行く彼の手から無理矢理離れると、後ろにいるお化け達の元へと踵を返した。
「アタシはここで足止めをいたします…。弟月様は逃げ――――」
最後の台詞を言おうとした途端に、銃声が響いた。
弟月様は後ろから迫って来ていたお化け達を銃で蹴散らし、微笑んだ。ようにアタシには見えた。
愛おしそうに見つめ返すと、彼は鐘を鳴らした。
低い鐘の音はまるで結婚式を彷彿とさせる。
弟月様を食べれないのは残念だけれど、こういうハッピーエンドもたまにはいいかもしれないわ。
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【堂地保菜美】
「まてー!!待つのだ―!!夏岡にょん!!!おーんーなーにーしてーやーる!!!」
「ヒィィィ!!もう、勘弁しろー!ボインは十分だ!!」
「ふっふー!だめなのだー!もう一回あのボインを揉ませるのだ!!」
肝試しがスターとした瞬間に胸を揉もうとしたら上手くかわされてしまった。
今は仕方が無いから追いかけてるところだにゅん。
て、言うか、相変わらず運動神経がいいのん!
この保奈美とタメをはるとは!!!!
所々で足を掴まれたり、なんか降ってきた気もするけど。
夏岡にゅんに気を取られてマリアが用意していたオバケも気にならなかったのん!
ぜひ!女夏岡と保奈美は肝試しを回りたいにゅん!!
あのデカパイに顔を埋めてみたい!!!!
夏岡と追いかけっこをしていたらあっという間に鐘までついてしまった。
夏岡がマントで空へと飛ぼうとしたので保奈美は武器を展開させた。
「せーはい、とんでけー!!!」
惜しくも夏岡には避けられてしまったがそのまま一直線に鐘へと聖杯はとんでいく。
ゴーンとけたたましい音を立てながら鐘が壊れて下に落ちた。
後からの子たちはどうするんだにょん、と、思ったけど、マリアが何とかするだろう。
「フフフ、もう逃げ場は無いにょん…!!」
鐘に跳ね返った聖杯が調度夏岡の行く手を阻んだため保奈美は手をわきわきさせた。
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【夏岡陣太郎】
俺、肝試ししてるんだよな?
なのになんでこんなことになってるわけ?
一番怖いのは目の前にいる堂地なんだけど。
しかもなんでこいつは女なのにボインが好きなんだ!
うまく聖杯は避けたが、一本道の真ん中でにじり寄ってくる堂地の目は正しく狩るものの目をしていた。
別にまたボインになっても戻してもらえばいいんだけど、あの感覚は一度で十分だ。
「つーかおまえも乳でかいんだから、自分の乳揉んどけよ!!」
「自分の胸を揉んで楽しいわけないにょ!!」
「だからって趣味悪いぞ!!」
再びマントを翻し空を飛ぼうと地を蹴ったが、堂地の凄まじい身体能力でマントの裾を引っ張られ地面へと押し倒される。
「覚悟するにょ〜…」
「ちょ、まっ、やめ……ぎゃあああああああああああああッッッ!!!!」
堂地は不気味な笑みを浮かべながら俺の胸へと手を伸ばす。
わきわきと揉まれた乳はあっという間にでかくなり、身体が女へと変化していった。
ああ…また大事な何かを失ってしまった…。
とにかくこのままずっとここで揉まれているのはごめんだ。
ゆるんだ顔をして俺の胸の谷間に顔を埋めてくる堂地の腹を蹴り上げると、そのままダッシュでスタート地点までの帰路を駆けて行く。
「ま〜つ〜〜にょ〜〜〜〜!!!」
「待たないし!!!」
無我夢中だった俺はどうやら帰りのルートを間違ったらしく、目の前に俺達より先に出発した太一が見えてきた。
ああ、太一、助けてくれ!太一!!
「たいちぃいいいいい!!!―――――!!??」
ボインをゆっさゆっさと揺らしながら太一へと抱き着こうとした時、俺へと弾が飛んできた。
頬を掠めた瞬間に立ち止まったが、振り向いた太一の顔は真っ青で目は据わっている。
「ちっ……趣味の悪いお化けめ…」
「お、俺お化けじゃない!お化けじゃないから!!」
そう言っても太一は聞く耳を持たず、俺に銃を乱射してくる。
その間に堂地が追いついて来たので、太一の弾を避けつつ堂地から逃げ切るために再びダッシュで森の中を駆け抜けた。
こんなに最悪な気分を味わったのは、何年ぶりだろうか…。
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【天夜巽】
「なんだか、前が凄く騒がしいね。」
「そうですわね。」
僕と一緒に周るのは、麗亜高校の会計補佐の黒部早紀さん。
とてもおとなしそうな子なので何の心配も無い。
特殊能力も戦闘的なものではないしね。
それにしても、いいな、会計補佐って、俺なんて雑用だからな。
なんで会長は補佐にしてくれなかったんだろうか。
日当瀬が勝手にきめてしまったのかな?
確かに俺は会計の仕事も書記の仕事もしてないので雑用といえば雑用だけどさ。
物思いにふけりながら溜息を零して居ていると上から生首が落ちてきた。
「きゃぁあ!!」
女の子らしい悲鳴が横から響くけど、作りものって分かっている為僕は全然怖くない。
「あはは、大丈夫だよ、黒部さん。
作りもの、作りもの。」
そう言って、僕は生首を茂みへと捨てる。ホッとしたような姿を見せる黒部さん。
それは女の子そのものなんだけど、……違和感を感じる。
そこからはイデアちゃんとマリアさんが丹精をこめて作ったオバケ達が僕達に襲ってくる。
最早肝試しと言うよりはゾンビ退治だ。
その度に黒部さんは悲鳴を上げていたけど…
なんだろう、この蟠りは…。
小高い丘が見えてきた。
が、鐘は地上に落ちていた。
前の人たちっていったい何をしてたんだろ。
取り合えず、クナイでも当てて鳴らそうかな。
その前に素朴な疑問を黒部さんにぶつけてみた。
「黒部さんってさ、もしかして、腹黒―――」
そう告げた瞬間に僕の体は小さくなった。
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【黒部早紀】
まったく怖くない。
作りものだってわかってるし。
でもいちいち反応しとかないと男ってすぐ幻滅するっしょ?
か弱い悲鳴って喉痛くなるんだよね。
隣にいるなんかお人好しを気取ってるこの男も、絶対あたしの事勘違いしてんだろうなあ。
ああ愉快愉快。
でも、なんかこいつには同族みたいな気持ちが沸く。
へらへらにこにこ笑ってるくせに、腹の底では何考えてるかわかんない系っつーのかな。
なんせあたしは自分に似たような奴には嫌悪感しかわかない。
同族嫌悪ってやつか。
ひたすらきゃあきゃあ言いまくって辿り着いた高台の鐘は、何故か地面に落ちていた。
ぶん殴って鳴らしてやろうかと思ったが、となりの優男が急に変な事を口走りやがった。
腹黒の「は」の字が聞こえた瞬間に、咄嗟に解除していたマジックハンドで優男を握り潰し小さくしてしまっていた。
しまった。あたしとしたことが。
でもまぁもういいや。
気づかれてるみてえだし。
「…その言葉、他の奴等の前で言うんじゃねぇぞ。
か弱い乙女っていう設定で通ってんだからな」
先ほどまでとは違った笑みで天夜へと微笑みかける。
小さくなった天夜をマジックハンドでグっと握りつぶす様にすると、鐘を足で蹴り上げた。
ゴーンという音が鳴ったのを確認すると、再び天夜へと視線を向ける。
「今お前はアタシが握りつぶしたら死ぬから。
だから大人しくしてな」
そう言うと辺りのお化け達を素通りしながら、小さい天夜を握ったままスタート地点へと向かい始めた。
あーかったりー。
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【天夜巽】
やられた…。
戦闘は無しと言っていたが、死んでしまっては元も子も無いなと思いマジックハンドの中でジッとしている。
うーん、これぞ腹黒っていう感じの女の子だったんだね。
僕より酷いかもしれない。
第一、僕の中の黒い部分が出てきてもここまで変わらない…多分。
せめて、肩に乗せてくれたらいいのにな、と思いながらマジックハンドに挟まれたままジッとしている。
鐘も鳴らしたし、もうすることもない。
小さくなった時点で勝手に心拍数は多くなってしまうのできっと僕の負けだろう。
と、言うか、この子変化ゼロなんじゃないかな。
「黒部さん。ちょっとは心拍数上げ解いた方が良いと思うよ。
ほら、か弱い乙女が全く心拍数変わらなかったらへんでしょ?」
「黙れ、カスが!
その時は、あー、やだ、計測器が壊れてたのかしら、って、言えばいいんだよ!クズ!!」
うーん、思考やごまかし方が全く同じ過ぎて笑えない。
僕はこのままここに居るしかなさそうだ。
腹黒同志なら煮ても焼いても食えないし時間の無駄だろう。
それよりも、那由多大丈夫かな…。
俺の思考は既に違う方向へと流れていた。
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【千星那由多】
「ひぃいいい!!」
怖い、怖い怖い怖い!!!
七不思議の任務が比にならないほど怖い!
あの時は会長が怖がってたからなんとか自分を保てていたけど、今隣にいるのは華尻だ。
しかも脅かし方も尋常じゃない。
作り物にしては精密すぎるし、ちょっと気を抜くと片足の無い少女とかが声をかけてくる。
振り向いちゃいけないとわかっていても、ついつい振り向くと、血まみれのメイドとか、びしょ濡れのサーファーとか、意味の分かんないものがたくさんいる。
華尻の事も忘れて悲鳴をあげていたが、どうやら華尻はこういうのは苦手ではないらしかった。
俺が叫ぶ声にびびってる感じがあるけど、神経図太すぎだろ!!
情けないけれど華尻にくっつきながら歩いていたが、それでも四方八方お化けばかりで何の防御にもならなかった。
「もう無理…帰りたい……」
別に華尻に男らしさを見せても意味が無いので、俺は盛大に怖がっていた。
もう隣にいる華尻さえも怖い。
「男のくせにだらしないわね」
「うっせーよ!話しかけるな!もうお前の声も怖いわ!」
「はぁ!?」
そんなやり取りを繰り返しながら、森の中を歩いて行く。
叫び声やら鐘の音さえも急に聞こえるから怖い。
耳も目も塞いでこのまま歩いて行きたいが、足場の悪い森の中では絶対に無理だ。
暫く歩いていると、途中に巽の後ろ姿を見つけた。
まだこんな所に居たのか。
巽なら心強いかと思い華尻を置いて側へと駆け寄る。
「巽!一緒にい…………ッ――――!!!!」
肩に手を置いたが違和感を感じる。
ぎこちない動きで振り向いた巽は、何故か顔に無数の穴が空き、恐ろしい笑顔で微笑んでいた。
「ナユタガワルインダ……ナユタガ……」
「ああああああああッごめんなさいいいいいいい!!!!!!」
俺が悪い!!俺が悪かった!!でも何が悪いのかもわからないごめん!!!!
踵を返しダッシュで華尻の後ろへと隠れると、腕を掴む。
「華尻っ!!無理!!もう帰ろう!!俺無理!!!」
ぴったりと華尻に隠れるようにして、頭に顔を埋めた。
もうこれ以上歩いて行く事は不可能だ。
足が震えて動かない。
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【華尻唯菜】
オバケなんか怖くない。
だってこれは作りものだから。
そうよ、作りものなのよ……って怖くない訳有るかー!!!!
もー、なんなのよ!!!
ここは普通男がリードするとこじゃないの!!!
かなり幻滅、でも、好き、いやいやいや、違う違う、断じて千星なんか好きじゃないんだからー!!!
そんなに、盛大に怖がられたらアタシ怖がれ無いでしょ!!!
もとから強がりは得意なの!
だから、引き出してよ!!!
そんな願いも虚しく千星は一人で騒いでいた。
叫び声も怖いし、襲ってくるゾンビも怖い。
だけど、何とか我慢できる。
ただ、それだけ。
千星は仲間の形をしたオバケにとどめを刺されたみたいだ。
あれは間違いなく文子の能力を使って作ったものだろう。
顔に穴が開いた姿はとんでも無くグロテスクだった。
アタシだって怖いのに、千星はお構い無く私の頭に顔を埋めてる。
仕方なくアタシは彼の手を握った。
アタシの手も実は震えてるし、変な汗でびっしょりなんだけど、千星の手も震えて、汗でびっしょりだから気付かれないかな…。
「ほら、さっさといくよ!この、役立たず!!!」
そう言ってアタシは偽物の天夜を布団叩きで蹴散らし、顔を真っ赤に染めながら走り出した。
その時、この競技が心拍数を上げては駄目だと言うことなどすっかりと忘れていたのは言うまでも無い。
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【千星那由多】
華尻は頼もしかった。
立ち向かってくる無数のお化け達を、布団叩きで蹴散らしながら進む様は、もう男だ、ヒーローだ。
ぶっ飛んで行くお化けをなるべく見ない様に、目を瞑りながら手を引かれていくと、あっという間に鐘のある丘にまでたどり着いた。
鐘を鳴らせばやっと帰る事ができる。
小さく安堵の息を漏らすと、一本道を先に進む華尻が何故か急に立ち止まった。
「どうした…?」
なに、なんかあるのか?
華尻でも倒せないお化け?
もうマジ勘弁してくれよ、早く鐘鳴らしてくれよ。
「…ごき……ぶり……」
「え?」
「ゴキブリ無理なの私ッッ!!!」
華尻の頭の上から顔を覗かせると、そこには巨大なゴキブリがいた。
俺の身長よりでかいそれは、2mくらいはあるだろうか。
身の毛がよだつ感覚に身体が硬直する。
だが、それ以上に華尻の顔は真っ青だった。
「無理…ほんと無理!!お化けより無理!!」
そう言って華尻は俺の後ろへと隠れる。
やばい、華尻が機能しなくなったらこれ俺がやっつけないといけないじゃん。
にじり寄ってくる巨大ゴキブリを目の前にしながら、震える手で剣を握った。
大丈夫だ、ちょっと大きくなりすぎちゃったゴキブリだと思えばいい。
良く食べ良く寝る子だったんだよこの子は!!!
そんな事をつらつら考えていると、目の前にいた巨大ゴキブリがいきなり空を飛んでこちらへと向かってきた。
「きゃああああああああ!!!!」
「うわああああああああ!!!!」
正直華尻の声の方にびびったが、俺は一心不乱に剣先を宙に向け、火という字を描いた。
剣が炎に包まれると、続けざまに「火之矢斬破」と乱雑に綴る。
「ひ、ひ、ひのやぎはああああああっっ!!!」
そのまま切り込むなり炎の弾をぶつけるなりすればよかったが、完璧に混乱していて必殺技を使うことしか頭になかった。
無数の炎の矢が、向かって来た巨大ゴキブリにぶち当たると、巨大ゴキブリは炎に包まれ地面へとどさりと落ちた。
もがき苦しんでいる姿はリアルすぎて、何とも言えない光景に二人で息を飲む。
そして、外れた炎の矢が鐘に当たり、ゴーンと言う鈍い音が闇へと消えていった。
「い、行くか……」
二人とも多分かなりの心拍数だと思うが、俺はこの時競技のルールをすっかり忘れていた。
そして俺達は、手を繋いだままスタート地点へと口数少なく引き返していく。
帰り道はもうこんなのいませんように…。
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【日当瀬晴生】
肝試しは千星さんと別の班だった。
まぁ、当たり前か…。
つーか、この麗亜戦、俺は千星さんになんのアピールも出来てねぇ!
見事な惨敗っぷりを見せつけてるだけだ。
しかし、そこは千星さん。
こんな敗戦続きの俺でも温かく受け入れてくれる。
会長とは大違いだぜ!!
しかし今回は会長も負けても勝っても特に何も反応しねーし。
特に作戦を言ってくる訳でもない。
んと、毎回の事ながら何を考えているか分からねぇ奴だ。
俺は煙草に火を点けると、長く煙を吸い込みゆっくりと吐き出した。
景色に煙が溶け込んで行くのを見るのがなんとなく好きだ。
そして、さっきから俺の視界に入ってくるゾンビ共がウザい。
気配を察知した途端に撃ち殺しているんだが流石はイデアさん作、中々しぶとい。
そうしているうちに千星さんの姿が視界に映った。
千星さんは俺の一つ前だったので追いつけたのかと思い俺は一目散に走り出した。
「千星さーん!!こんなとことでどうした……っち!偽物かよ!」
しかし、振り返った彼は目が飛び出し、口が裂け、鼻がもげ、この世のものとは思えない顔をしていた上に偽物だった。
本物だったらどんな千星さんでも歓迎だが偽物は必要ない。
躊躇なく銃で撃ち殺すと俺は先を急いだ。
……そういや、これ、ペア居なかったけな?
まぁ、いいか。
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【百合草麗華】
私は幽霊は怖くない。
と言うよりもそう言った類の物は信じないタイプなので、肝試しという行為自体特になんとも思わない。
心音は正常なまま、隣を歩く晴生さんの横を歩く。
この競技は、相手を怖がらせて心拍数をあげるという競技でもある。
どうやら晴生さんも私と同様に肝試しは苦手ではないみたい。
「晴生さん、幽霊、怖くないんですか?」
一度声をかけてみたけれど、彼は私の事を気にせずに煙草を吹かしていた。
晴生さんは私の能力に陥りやすいので、簡単に落せるかと思っていたけれど…。
「すごくドキドキしますよね、心音あがっちゃいませんか?」
声をかけてもかけても、彼は無心で目の前に現れるまがい物のお化けやゾンビを銃で撃ちぬいていた。
おかしい。
バトルバレーの時は簡単に私の言葉に耳を傾けてくれたのに、今は何か一つの事に集中している様子。
まるで私が隣にいないような素振りで、黙々と暗い森の中を進んで行った。
「ちょっと、晴生さん、待って…」
足早に進んで行く晴生さんの後ろを付いて行くと、目の前に鐘が見えた。
これではこの競技、まったく相手に何もできないまま終わってしまう。
晴生さんが地面に落下している鐘へと銃口を向けた時、私は彼の手へと自分の手を絡ませた。
こうなったら自分を使うしかない。
「晴生さん…私ではない誰かの事を…考えていますか?」
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【日当瀬晴生】
急に殺気無く腕を掴まれたので危うく撃ち抜きそうになった。
振り返ったところに居たのは麗亜の女だった。
「なんだ、てめーか。つーか、お前もオバケなんか怖くねーだろ、さっさと行くぞ。」
俺は溜息を一つ吐いてから、再び銃を構えると鐘を打ち鳴らした。
確か攻撃はしちゃいけないとかそんなルールだったよなこれ。
そして、俺は踵を返す。
「ちょっと待って下さい、晴生さん!いったい、誰のことを考えているのですか?」
「あん?
んなもん、千星さんのことに決まってんだろ。
夏岡さんもだいぶ先だから会うことねーだろうしさ…
だから、俺はこんな競技終わらせてさっさと帰りてーんだよ。行くぞ。」
余りにも当たり前のことを聞かれたので答えて置いてやる。
そして、俺は銃で自分の肩をポンポンと叩くとさっさと歩き始める。
そこから、麗亜の女は「ドキドキしてきませんか?」「あ、千星さんが!!」と、色々話しているのが聞こえたが正直興味が無かった。
つーか、この肝試しの勝ち負けにも興味が無い。
心音なんて結局運や体調でしかねーんだからな。
後はゴールで結果を聞くのみだ。
なにより、千星さんと夏岡さんにはやく会いたかった。
俺は一つあくびをすると、銃でゾンビを撃ち抜いた。
今度は夏岡さんの偽物だ。
まぁ、偽物でも目の保養にはなるか、そんなことを考えながら俺は帰路を辿った。
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【園楽あたる】
暗い森の中を懐中電灯で照らしながら歩いて行く。
俺の相手は三木さんだ。
お化け屋敷とかは怖いとは思わないけれど、この薄暗い雰囲気はあまり好きではない。
出て来る仕掛けも良くできているが、偽物だと思えばなんてことはなかった。
隣の三木さんは特に怖がる様子もない。
見た目に反して意思はしっかり持った子だな、と感心してしまう。
うちの女子達も見習って欲しい。
いや、行き過ぎた意思を持ちすぎている奴も何人かいるが。
「足元気を付けてくださいね」
敵ではあるが、女性なので自然と気を使ってしまう。
他愛ない会話をしながら、お化けの仕掛けを潜り抜けていると、三木さんが急に声をあげた。
「あ…」
何かに気づいたような素振りで立ち止まると、俺の方へと振り向いた。
「あそこにいる人、目を合わさないでください」
「え?」
指は差さなかった物の、向いていた視線でそこに何がいたかはわかる。
ぼんやりと立っている女性の幽霊だ。
いや、でもあれって仕掛けなんじゃないのか?
「な、なんで…?まさか本物とか…?」
「みたいです。さっきから何人かいましたが、あれはちょっと危ないかも…」
一瞬にして背筋に悪寒が走った。
合わせようとしていた視線を目の前に戻すと、その女の幽霊の前を通っていく。
見てる、こっち見てる。
でも、他のお化けの仕掛けと違って俺達を脅かしたりなどしない。
なんとなく俺でもわかる。
あれは本当に本物だ。
「み、三木さん霊感とかそういうの…あるの?」
「なんとなく普通と違うかなって感じるだけで……あ」
三木さんの気づいたような声に再び身体が強張った。
話している表情は変わりがないので、突然声をあげられると結構怖い。
彼女の儚げな雰囲気も相まって、より一層怖さを引き立てている気がした。
「さっき、見ちゃいました?ついてきてます、振り向かないでください」
ああ、確かにさっきちょっと見ちゃった。
後ろにひとつはっきりとした足音と、荒い息が聞こえる。
やばい怖い。余裕そうな三木さんが余計に怖い。
ガチガチになっている俺に気づいたのか、三木さんは小さく微笑んだ。
「大丈夫ですよ、男の人に恨みを持ってるただの幽霊だと思います」
いやいやいや!大丈夫じゃないでしょそれ!!!
流れる冷や汗を拭いながら、俺達は足早に森の中を進んで行った。
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【三木柚子由】
どうしようかな…。
後ろの女の人は園楽君を気にいった様子。
それにしても、前肝試しをしたときはこんなに霊は寄って来なかったのに、今日は凄い。
クッキーさんの別荘だからかな…?
早足に進んでいると横の園楽君が青ざめていっているのが見えてしまった。
それを正そうと手を握るまでは良かったんだけど。
「大丈夫?園楽く―――」
“また、違う女と手を繋ぐのね。”
……。まずい。
これはこの幽霊さんの禁止行動だったみたいだ。
「園楽君、走って…!!」
“どうして、アタシと繋いでくれないの…”
後ろの女性は豹変した。
目を剥きだし、髪を揺らめかせ、歪んだ表情で信じられないスピードで私達を追いかけてくる。
このままじゃ、追いつかれるなと思った瞬間、ハッとした。
手を繋げばいいんだ。
私は急に立ち止まると、繋いだままだった園楽君も足を止めることになる。
「ちょ!三木さん…!どうしたの!!!?」
「繋いでいいよ?」
そう言って私は園楽君の手を幽霊に差し出した。
「でも、連れて言っちゃ駄目。園楽君はこちらの人だから。言ってること分かる…?」
こうやって面と向かって話す人物が今まで居なかったのか目の前の幽霊はきょとんとしていた。
相変わらず顔はおぞましかったけど。
多分、手を繋いで歩いたら事の人は空に昇れる気がするんだ。
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【園楽あたる】
後ろの女の幽霊から逃げるように歩いていた。はずだった。
それなのに何故か三木さんは俺の手を、女の幽霊に差し出した。
正面から見た幽霊の顔はなんともおぞましかったが、俺の手と三木さんの顔を不思議そうに交互に見つめていた。
「み、三木さんん…??」
声が上ずって身体が硬直する。
三木さんの表情は本気だった。
正直幽霊と手なんて繋ぎたくない、だけど、ここで俺が拒否すればもっと大変な事になりそうな気がする。
女の幽霊は、青白くて細い手を俺の手に重ねた。
尋常じゃなく冷たくて、人間ではない事を確信したが、息を飲み叫びたい気持ちを抑え込む。
「じゃあ行こっか」
俺は三木さんと女の幽霊に挟まれる形で再び森の中を歩き始めた。
なんだこれは。
なんつーめちゃくちゃな体験だ。
女の幽霊は痛いぐらいに俺の手を握りしめて来た。
三木さんは小声で謝ってきたが、それに返事さえできないまま、俺は真正面だけ向いて歩き続けた。
鐘までの一本道が見えてくる。
何故か鐘は地面に落下していたが、そこまでたどり着くと、幽霊が突然話し始めた。
「…ありがとう……怖がらないでいてくれて…嬉しかった……」
俺の手を握っている幽霊の手が、更に強くなる。
連れてくな、連れてかないでくれ。
俺はまだ死にたくない。
「ううん、最初から気づけなくてごめんね。私たち鐘を鳴らしたら引き返すけど、どうする?」
「……帰ります……ちゃんとした所に…」
その女の幽霊の言葉にほっと息が漏れた。
俺の手から離れた冷たい手は、どんどんと色が薄くなって行った。
おぞましかった女の表情もやわらかくなっていくと、俺達に向けて小さく微笑んだ。
「恋人の事、大事にしてあげてね……」
俺にそう言うと幽霊の身体は天へと上って行き、それと同時に鐘の音が辺りに鳴り響いた。
その音は、みんなが鳴らしていた音とは違う綺麗で透き通った音で、真っ白い光が辺りを包んだ後、幽霊は完全にいなくなってしまった。
「こ、恋人じゃないんだけどな……」
空笑いをした後、三木さんも困った様に笑っていた。
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【神功左千夫】
暗い、のは怖くない。
しかし、肝試しと名前が付くだけで僕は駄目だ。
しかも柚子由が行く前に僕に忠告していった。
「…本物が混じってます。気を付けてください」と。
ディスプレイからイデアの声が聞こえた瞬間に僕達は歩き始める。
と、言っても横を気にする余裕など僕には無かったが。
「じ、神功君はこういうの大丈夫なのかい?」
僕の対戦相手である、鳳凰院しのぶが話しかけてきているが既に僕の心はここには無かった。
こんなシチュエーションの怪談が確かあった様な気がする。
「そう言えば、昔…こんな話を聞いたことがあります。
ある男女が駆け落ちをしようと丘の鐘の前で待ち合わせをしていた。
ここの鐘は夜の8時4分に鳴らすと幸せになれると。
なので、その男女は二人の門出にここの鐘を鳴らしてからどこか遠くに行こうと話し合っていた。
先に付いたのは女性。
しかし、待てども待てども男は来なかった。
そう、…その女性は見事に男に裏切られたのです。
悲しみに明け暮れた女性は幸せになる筈の8時4分に海に身を投げたと…」
その瞬間に小気味悪い鐘の音が辺りに鳴り響いた。
そして、見たことも無い、いや、お化け屋敷でしか見たことのないゾンビが僕の前に現れたので無心で走りだした。
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【鳳凰院しのぶ】
怖くない。肝試しなど、お化けなど、僕は怖くない。
怖くない怖くない怖くない。
そう言い聞かせながら嘘の余裕を見せた所で、僕の気持ちは変わる事はなかった。
正直怖い。
ものすごく怖いんだ。
小さい頃に同級生の男子に強いところを見せようと、一人でお化け屋敷に入ってからと言うもの、こう言った類の物が嫌いになってしまった。
あの日の光景は今でも思い出せる。
強がった僕が悪かったけれども、男にバカにされるのだけは本当に嫌だったんだ。
今隣にいるのは神功君。
敵であり男の彼に、弱味など見せれるはずもない。
震える声をごまかして神功君に声をかけたが、彼は返事をするどころか急に怪談話しを始めた。
やめろ、やめたまえ、今なぜその話しをする。
き、きっと僕を怖がらせるつもりだ。
「は、ははっ、こんな肝試しなど余裕と言うわけか!」
何故か駆け出した彼を追い掛けるようにして僕も走った。
途中のお化け達は剣で薙ぎ払っていく。
その間も神功君は怪談話しを止めなかった。
耳を塞ぎたいが、耳を塞ぐとお化けを剣で薙ぎ払う事ができない。
仕方なく彼の怪談マシンガントークに付き合う事になってしまった。
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【神功左千夫】
実はこの話はあれで終わりではない。
こっからが本番だった。
僕はゾンビを避ける様に走りながら唇を動かす。
「この話には続きがありまして。
その男の話なんですが。
実はその男は、その女性と一緒に駆け落ちする気なんてさらさらなかったらしいんです。
そして、数年後たまたまその丘に別の彼女と行った時のことです。」
そうだ、この男は詐欺師の様なもの。
女だけでなく、友達も平気で騙す、そんな男の話だった。
「男が、新しい彼女に
『そういや、昔、物分かりの悪い女がいてよー、俺と駆け落ちしたいってここで待ち合わせしてたんだ。まー俺は勿論行かなかったけどさ。』
『へー、ちょー受けるね』
そんな話をしながら丘をのぼっていると、新しい彼女が急に悲鳴をあげたそうです。 そして、指をさした」先にはずぶぬれの女性が居たらしいです。
そして、その女性は言うんです『手を繋いで…、手を繋いで』と。
怖くなった男はその彼女を放り出して走り出したそうです。
走って逃げている最中に男は今まで騙してきた女や男と沢山会いました。 勿論、皆そろって手を繋いでと男に求めてきたそうです
それを振り払って丘まで登ると、目の前に待ち合わせをしていた女性がまた現れたそうです。
勿論、後ろには騙してきた大量の男女がひしめいています。 目の前の女性はまた『手を繋いで』と男性に言ったそうです。
男は覚悟を決めました。 その女性と手を繋ぎ、鐘のところまで歩きました。 するとずぶぬれの女性は『嬉しい』と笑みを浮かべました。 」
そう、ここは良かった。
この男の行為は間違いでは無かったと僕はこの話を聞きながら思ったのに。
「しかし、その時、男は胸元に忍ばせていたバタフライナイフでその幽霊の女性の胸を一突きしたそうです。
絶望に満ちた表情で女性はその場に倒れました。
『はは、幽霊をころしてやったぜ』
男は幽霊になった女性をあざ笑うかのようにそう言いました。
しかし、その女性は死んでなんかいなかった。」
ゆ る さ な い
「 地をはうような低音が辺りに響いた後、男の両足を強く掴まれたそうです。
その瞬間辺りに鐘の音が響きました。 」
そう言った瞬間に今までとは異なるどこまでも響く様な鐘の音が辺りに響きわたった。
ああ、これはマズイ。
きっと僕は何かをまた呼んでしまった。
「次の日、男の新しい彼女が警察に通報し男は見つかりました。
男は丘の上でなぜか全身びしょぬれで鐘の下敷きになって死んでいたそうです。」
どこまで話したか記憶にない。
僕が最後に覚えているのは夜空へと上がる一筋の光だった。
そう、僕はここで意識を失ったのだ。
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【鳳凰院しのぶ】
彼の怪談から耳を離せなかった。
聞きたくないのに聞いてしまう。
彼の口調、声のトーン、全てがそうさせていた。
全身に鳥肌は立ちっぱなしで、寒気で身震いが起きる。
辺りに先ほどまでとは違う、甲高い鐘の音が鳴った瞬間に、僕は恐怖で目を強く瞑った。
そこから鐘のある丘へとたどり着くまでは、あまり覚えていない。
多分僕は感覚だけで森の中を駆け抜けていた。
隣にいる神功君が倒れた事にも気づかずに。
我に返った時には、小高い丘の手前まで来ていた。
もちろん神功君はいない。
そして、何故かお化けの仕掛けなども見当たらなかった。
まるで自分が別次元に来てしまったかのような感覚に、大きく息を飲んだ。
「は、…はぁ……っ、だ、大丈夫だしのぶ……あんな話、嘘、嘘にきまってる…!
神功君は脅かすために……あんな嘘の話をしたんだ、そう、そうだ……」
冷や汗なのか、走って来たためかいた汗なのかはわからなかったが、額から流れ落ちてくるものを腕で拭った。
鐘への薄暗い一本道を一人で歩いて行く。
しかし、僕は気づいてしまった。
何故か鐘が地面へと落下している。
『男は丘の上でなぜか全身びしょぬれで鐘の下敷きになって死んでいたそうです。』
先ほどの神功君の話が脳裏に過った。
遠くで波の音が煩い程大きく聞こえ、自分の心音もそれに混ざる。
歩いていた足が自然と止まった。
恐怖だ、恐怖で動けない。
けれど人間というものは、怖いものほど何故か見てしまうという奇怪な行動を取る。
この時の僕もそうだった。
持っていた懐中電灯で、闇に紛れる鐘へとゆっくりと光をあてた。
そこに照らされた光景に、僕の心臓は、この時多分止まっただろう。
地面に落ちている鐘の下に、人間が一人。
それは、なぜかびしょ濡れの神功君だった。
鐘の下敷きになっている彼の表情は、この世のものとは思えないほどに醜く歪んでいた。
「――――――――ッッッ!!!!!!」
叫び声もあがらないまま、僕の意識はそこで途切れた。
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【西園寺櫻子】
私達が最後のペアですが。
どうやら、九鬼さんもオバケは全く怖くない様子。
勿論私も全く怖くありません。
一度見れば変わるかもしれませんが。
見てもきっとこの感覚は変わらないでしょう。
それよりも、マリアが与えてくれたこの能力の方が私にとっては奇怪ですから。
「九鬼さんもこう言った類は怖くないんですね。」
「うん。ボクは全く信じないカナ?怖い話なら沢山知ってるけど。」
「そうですか。九鬼さんが私達の会長のしのぶさんと当たっていたら大変なことになっていたでしょうね。
しのぶさんはああ見えて、怪談が大の苦手なのです。」
微笑みながら私がそう告げると少しした後に何かを思い出したように九鬼さんが難しそうな顔していた。
「どうかなさいましたか…」
「うーん、左千夫君、うちの会長、怖いと勝手に怪談はなしちゃう症候群なんだよねー」
そう言った九鬼さんはおもしろそうとも少し困っていそうとも取れる表情をしていた。
これはなんだか…。
マズイ気がします。
取り合えず、私達は武器でゾンビを倒しながら言葉数少なく先に進み始めた。
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【九鬼】
参ったな。
鳳凰院までお化けが嫌いとなると、確実に左千夫クンはやらかしてるだろう。
彼のあの変なクセは自分も周りも巻き込むから、厄介でならない。
どっかでぶっ倒れてなければいいんだけど。
「それより櫻子ちゃん♪今度ボクとデートしない?
君が楽しめそうな所いっぱい連れてってあげるケド♪」
櫻子ちゃんにそう声をかけても、にっこりと微笑まれるだけでスルーされる。
ちょっとぐらい頬を染めてくれてもいいんだけどな。
この子は多分ボクと似たような恋愛思考の持ち主だろう。
見た目は美人で綺麗なのに、残念だ。
「それにしても、副会長ってのはお互い苦労する――――」
「九鬼さん、あれ……」
突然櫻子ちゃんが立ち止まり、目の前を指差した。
その先には、眠る様に地面へと倒れている左千夫クンがいた。
本当にぶっ倒れてるし…。
彼の側へ駆け寄り声をかけるが、返事は返ってこなかった。
死んでいるわけではないが、完璧に意識を失っている。
見つけたのがボクと櫻子ちゃんでよかったと、変な安堵感に包まれた。
「でも左千夫クンだけしかいないネ…鳳凰院は?」
「……しのぶさんっ……!」
辺りを見まわす間もなく、櫻子ちゃんは鐘のある丘へと向かって走り出した。
ボクと左千夫クンを置いて。
「……ま、いっか」
小さくため息をつくと、ぐったりとした左千夫クンを背負いあげる。
あーあ、折角の櫻子ちゃんとのドキドキ肝試しが台無しだヨ。
口先を尖らせながら、ぴくりとも動かない左千夫クンを背負ったまま歩き始めた。
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【西園寺櫻子】
「しのぶさん…!!」
丘の上まで上がると案の定しのぶさんは気を失っていた。
横に鐘に押し潰された神功さんの偽物が居たので多分これを間違えたのでしょう。
しかし、仲間の能力も分からないなんて、どれだけ怖かったんですが…。
「神功…く…ん、それ以上…怖い話を…しないで…くれ…」
うわごとのようにしのぶさんが言っていたのでどうしてこうなったかは自ずと分かってしまったが。
其処にマリアとイデアさんが降りてきた。
「あらあら、これは引き分けにするしかありませんね。」
「そうだナ、運ばないト、いけないしナ。」
そう言って私がしのぶさん、九鬼さんが神功さんを運んでゴール地点へと向かった。
途中で、神功さんも、しのぶさんも気付いたが始終無言だった。
ゴール地点は九鬼さんの屋敷の中。
イデアちゃんたちが既に勝ち負けをディスプレイに表示していた。
◎幸花VS不破×
×純聖VS秋葉◎
×弟月VS電童◎
×夏岡VS堂地◎
×天夜VS黒部◎
◎千星VS華尻×
◎日当瀬VS百合草×
◎三木VS園楽×
△神功VS鳳凰院△引き分け
△九鬼VS西園寺△引き分け
心拍数なので、勝敗に異論を唱える者がいるかと思ったが誰もが納得した、そして、疲れ切った表情でその勝敗表を見つめていた。
しのぶさんはと言うと、神功さんが口を開いた瞬間に口を塞ぐと言うトラウマぶりを発揮していた。
明日までに治るのでしょうか…。
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【千星那由多】
何故か俺が勝ってた。
絶対に負けてると思ってたんだけど。
負けたのが意外な人が結構いたが、総合的には引き分けという感じなのでまぁ良しとする。
会長と鳳凰院が引き分けってのが気になるけど…。
絶対に怪談トークを繰り広げていたという事は、鳳凰院の行動でわかったが。
「デハ今日はこれで終了とスル。
明日の競技のタメに今日の疲れを癒セ」
イデアの言葉で今日の競技は全て終わった。
運動したりびびったり、色々あった一日だったが、また明日もあるのかと思うと気が重い。
夏を満喫しに来たはずでは…と思ったが、考えると余計に気が滅入りそうなのであまり考えないようにした。
その後は各自風呂で疲れた身体を癒し、部屋へと戻って行く。
殆どが肝試しの話は口にしなかった。
人生で一番記憶に残る肝試しだったことは間違いないだろう。
少しばかり自由時間があったので、ふかふかなベッドの上で晴生の貰ったゲームの電源をつける。
どんなに疲れててもゲームをする体力はまた別だ。
明日はもっと楽な競技だと嬉しいんだが。
そんな事を考えながら、俺は眠い目をこすった。
■Mission No.63「海中デスゲーム」
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