【弟月太一】
“次鋒 夏岡陣太郎・弟月太一 法花里津・Chloe Barnes 前へ”
機械的な放送が入る。
こっちでは今純聖と幸花が皆から褒められているところだ。
あちらでは御神が目を覚ましたようだが戦えるのか…?
まぁいい、次は俺と陣の番だ。
が、…余りいい結果をもたらせそうにないな。
俺は掛けていた眼鏡を胸ポケットに突っ込む。
「時間稼ぎ位にしかならないかもしれないぞ。」
「それで十分です。」
神功と会話をかわしてからやる気満々の夏岡とフィールドへと向かって行った。
「太一!俺、犠牲者でよろしく!!」
元気な声で言われ、尚且つ肩を叩かれる。
まぁ、お前が執行人をしたら純聖レベルだろうなきっと。
「犠牲者でもスペルは必要だからな。」
俺がそう注意すると、「そっか!まいったな!」と、呑気な声が上がって俺は肩を落とした。
どうやらこのバトルは絆が重要視されるようだ。
絆と言うか、腐れ縁なら負ける気はしないのだが。
俺は一抹の不安を抱えながら敵と対峙した。
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【法花里津】
五十嵐副会長達が負けてしまった。
次は私とクロエの番。
……頑張らないと。
銀色になびく髪を少しだけかきあげ、クロエと一緒に配置につくためにフィールドへと向かう。
私は執行人、クロエは犠牲者。
練習はたくさんしてきた、うまく行くはず。
どうやら私が怖い顔をしていたのか、横を歩くクロエに肩を叩かれた。
「大丈夫」
そう言ってくれるだけで安心した。
ほっと息を吐くと、どうやら愛輝凪高校も配置についたようだった。
先ほどと同じようにコイントスで先攻後攻を決める。
これはクロエがやってくれたので、私たちが先攻になった。
少し…プレッシャーが大きい。
でも表情には出さない。
心配されたくないから。
一度大きく深呼吸をする。
大丈夫、大丈夫……。クロエが言ってくれた言葉を繰り返す。
そして、目の前にいる愛輝凪の弟月さんと夏岡さんへと視線を向けると、スペルを唱えた。
「綺麗な川を流れて来るのは、大きな桃でした……。
どんぶらこっこ…どんぶらこっこ……夏岡おじいさんは、それを見つけます。
そして中からでてきたのは……巨大な鬼!!!!
鬼は金棒を振り回し、夏岡おじいさんの頭に向かって振り下ろします!!」
これで、これで大丈夫、なはず。
結構イケるじゃない、私。
クロエのためにも、絶対に容赦はしないんだから、ね!!
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【弟月太一】
桃が……流れてきた。
「お、なんだ!これ!うまそうだな。」
そして、陣がそれに食いついた。
その瞬間続いてのスペル通り中から鬼が出てきて棍棒を陣に振りかざした。
「ぉおおおおおおおお!!!???」
どうやら陣は無意識にマントを動かそうとしているみたいだがスペルが必要なので動かない。
本当にバカだ…こいつは。
それに、あの法花里津と言うやつは変わったスペルを使う。
と、いうかスペルってこんなに何でもいいのか。
「お爺さんは背中に風呂敷を持っていた。
その風呂敷が大きくなって鬼を食べてしまう。
手品のようにふわふわ舞う風呂敷。
次にその中から出てくるのは、二匹、三匹、いや数十匹のネズミ。
お米の大好きなネズミは道着の白を餌と間違えて齧りつく。」
仕方なく俺が陣のマントを動かした。
陣は少しダメージを受けたようで首に赤いロープが掛っていた。
なるほど、毎回拘束の道具は変わるんだな。
「陣、頭で思っても動かないからな。
ちゃんと、言葉にしろ。」
俺は視線だけを後方へと流して言葉を掛けた。
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【夏岡陣太郎】
俺のマントが突然桃から出て来た鬼に向かって襲いかかっていた。
ああ、そうか、これ動かすにもちゃんと言葉にしなきゃダメなのか。
そこんとこちょっとめんどくさいなー。
「……つーか風呂敷ってなんだよ!俺のマントは風呂敷じゃねっつの!」
目の前にいる太一に怒鳴ったが、こちらを見向きもしなかった。
そうこうしている間に、さっき太一が放ったスペルがクロエへと降りかかる。
大量に溢れかえった鼠が胴着に食いつくと、その下の肌が見え始めた。
おー破れていく破れていく……って違う違う!!
どうやら下の肉にまで歯を立てているようだ。
なんか痛そう。
そして、クロエの後ろに立っている銀色の長い髪の少女が慌ててスペルを唱え始めた。
「ク、クロエ!!
えっと………お、お米を食べたネズミはどんどんどんどん太っていきます。
まあるい身体になったら最後、転がり始めてさあ大変です。
その身体は大きな岩になって、大好きな夏岡おじいさんの所へごろんごろん。
潰してぺちゃんこにしちゃいます!!」
その言葉の通りに俺の元へと膨らんだ鼠、いや、岩みたいな鼠が大量に転がって来た。
うおお、さすがにあれはマントじゃ防ぎきれる気がしない。
「た、太一!俺潰れる!!なんか、なんかして!!」
目の前にいる太一に向かって慌てて声をかけた。
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【Chloe Barnes】
ネズミに齧られた分のダメージが麻縄として私の体に巻きついていく。
確かにちょっと痛かったかな。
気功で体は守ってるんだけどちょっと齧られちゃったみたい。
肌蹴る道着を帯で結び直しながらりっちゃんに微笑みかけた。
「これくらいなら大丈夫よ。
どうやら向こうは夏岡さんがスペルを言うの苦手見たい。
ガンガン攻撃していきましょうね。」
そう言うとりっちゃんは「分かってる」と返してきた。
このツンとした態度が凄く好き。
「転がる岩はまるでおにぎりのよう。
大きく開いた穴に引き込まれるように落ちて行く。
そして、小判へと姿を変えるとおにぎりを落としてくれた小さな娘のもとに返る。
勢いが強すぎるそれはまるで鉄砲の弾のように後ろの女性にまで届くでしょう。」
どうやら弟月さんはこのスペル戦争に向いている様ね。
でも、小判の弾ぐらいだった。
「その小判は有り難く頂きます。
全て私の両手で受け止めます。」
そうして、私は両手を差し出す様にした。
勿論両手には気が張ってある。
それに跳ね返る様にして小判は私の手の中に入った。
大丈夫という意味を込めてりっちゃん微笑みかけた。
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【法花里津】
先ほどの攻撃はクロエが受けて吸収してくれた。
私には被害が一切ない。
いつも彼女は身を挺して私を安心させてくれる。
恵芭守高校に入って、全然友達ができない私と一番最初に友達になってくれたのがクロエだ。
すごく感謝してる。
何かクロエに言ってあげなきゃと思い、言葉を探す。
「…それぐらいできて、当たり前です」
ああ、でも私素直になれないの。
クロエの事は本当に本当に大好きなのに、いつも口から出る言葉は冷たい言葉ばかり。
それでもクロエは微笑んでくれる。
気を取り直してスペル戦争に集中しよう。
「小判をもらった女の子は、大金持ちになりました。
優しい彼女はたくさんの小判を誰かに配ろうと思いつきます。
彼女の手のひらから溢れる小判が、金色の龍になり、夏岡おじいちゃんと弟月おじいちゃんに絡みつく。
溢れる小判は、彼女の優しさでジャラジャラと増えて、二人のおじいちゃんはお金に埋もれてしまうでしょう」
スペルを唱えると、クロエが手を差し伸べる。
そこから小判が大量に放たれ、金色の龍のような姿で夏岡さんと弟月さんへと襲い掛かった。
「すっげー!金ぴかの龍だぞ!!あれ剥がしたらお金になる!?」
私のスペルに夏岡さんは物凄く楽しんでるようだけど…。
でも、手前にいる弟月さんの表情は、イライラしてるような呆れているような、そんな感情が少し伝わってきていた。
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【弟月太一】
「すっげー!金ぴかの龍だぞ!!あれ剥がしたらお金になる!?」
なるか…。
汗水垂らしてバイトしろ。
本当に陣には緊張感と言うものが無い。
拘束された時点でこちらには不利になると言うのに。
まぁ。いい。一度この流れを打ち切ろう。
どうして俺がおとぎ話を作らなければならないんだ。
俺は防御スペルを何も言わなかった。
そうすることでそのまま小判で出来た龍は陣を攻撃する。
「やりましたです!!」
目の前の小さい子から声が響いた。
その時、俺の中で何かが切れた。
「いい気になるなよ、このクソチビが…。
分かってるとは思うがお前が凄いんじゃない、後ろの女が強いんだ。
お前は後ろの女に頼ってるだけの服を着た人形。
そんな奴らにずっと一緒にいる俺達に勝てると思ってるのか?
体も小さい分脳みそも小さいんだな。
小さいお前が届かない空から烈風が巻き起こり後ろの女を切り裂く。」
悪いが、俺も手加減している余裕は無かったので。
思いっきり相手が嫌いそうな言葉を並べてやる。
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【夏岡陣太郎】
小判ザックザク!
なんて思ってたら龍は俺の身体に巻き付いた。
「どわあああああっ!!」
ちゃんと働かずに手に入れたお金はダメだな…あんな事言ったから今俺はお仕置きを受けているんだ…。
痛みと共に身体に赤い縄が更に巻かれて行く。
なんか純聖の時と違って、俺のは巻き方に順序があるみたいだ。
なぜか首から腹を通って下半身まで伸びて来てるんだけど、なんだっけこれ…見たことあるんだよな。
まだ縛られてる感覚は無いが、これ以上巻き付かれるのやだな。
身動き取れなくなるの俺嫌いだし。
まぁ太一に任せてれば大丈夫だと思うんだけど…。
法花に罵声を飛ばす太一を後ろから見つめながら、小さく息を吐いた。
あいつキレると収拾つかないからなー。
「おーい、あんま女の子いじめちゃダメだぞー」
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【法花里津】
当たった!
夏岡さんの身体に赤い縄が巻き付いて行く。
でも…なんか…あの巻き方、少し卑猥な感じが…します。
夏岡さんはその「縛り」の法則に気づいているのかわからないですが。
それでもスペルがうまく作動し、攻撃できた事実が嬉しくはしゃいでいると、目の前の弟月さんから罵声が飛んだ。
クソチビ…人形…脳味噌も小さい…?
私は好きでチビやってるわけじゃない。
クロエが凄いのもわかってるし、私はクロエがいなきゃ何もできないのもわかってる。
けれど、会って間もない相手に、そんな酷い事言われる筋合いなんてない。
「……うるさいですっっ!!短気じじいにそんな事言われたくないです!!
巻き起こった烈風は周りの木々を巻き込んで、巨大なハリケーンになります。
その姿はまるで風の神様です。
神様の口から吹き出される風は、吸い込んだ木や岩たちも吐きだします!!
そしておじいさん達は風や木、岩と一緒に苦しみの舞いを踊ります!!」
目尻に涙を溜めながら、指先を弟月さんへと指し示した。
絶対絶対負けない、ぎゃふんと言わせてやるのです!!
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【弟月太一】
「短気のどこが悪い。
スペルをおとぎ話にしか頼れない愚か者よ。
お前のスペルすらも話頼み、それはお前一人では生きていけないことをあらわしている。
後ろの女の足を引っ張るお荷物だ。
そんなチビの言った言葉等現実にはならない。
俺達に届く間もなく消えて、元のハリケーンのみ存在する。
そして、ハリケーンは二人を飲みこみ、天高く飛ばす。」
人にはコンプレックスと言うものがある。
俺は自分の能力を使えばそれを見ることができる。
人を知り過ぎるって言うのは苦痛なので余り使わないがな。
勝つなら短期戦、それしかない。
それが不可能なら後は時間稼ぎか。
俺達に向かって飛んできていた自然の残骸は到達する前に姿を消した。
そして、俺のスペル通りに竜巻が大きくなり二人を飲みこんで行く。
やはり、俺のスペルは間違えていない。
それにしても。
赤い縄が敵を拘束していく様はどう見たってアレにしか見えない。
こんな拘束の仕方もあるのだろうか、それともたまたまなのだろうか。
眼鏡が無いのに、俺は眼鏡を上げる仕草をしてしまった。
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【Chloe Barnes】
りっちゃんの心が乱れているみたいです。
竜巻は私達を包んでそのままダメージとして縄が更に巻きつく。
的確なスペルだったのでしょう、防御を唱える暇も無かった。
私はりっちゃんの後ろに近づいてポンと両肩を叩いた。
「私は小さい、りっちゃん大好きですよ。」
そして、にっこりとほほ笑んだ。
彼女が気にしていることは全て杞憂。
だって、私は彼女がこの学校で一番のかんばり屋さんだって思ってるから。
「他人の言うことに耳を傾けないで。
長所だけ信じてればいいの。
りっちゃんは私の最高のパートナーなんだから。」
この言葉がりっちゃんい届くかは分からないけど、私が伝えれることは全て伝えた。
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【法花里津】
腹が…立ちます…。
弟月さんはいちいち私のコンプレックスをついてくるし…私、いっぱいがんばってるのに…。
クロエのお荷物なんかじゃない。
だけど私のスペルは弟月のスペルによって分解され、残ったハリケーンがクロエを狙って来た。
防ぎきることもできないまま、それはクロエに当たり、彼女の身体が赤い縄で拘束されていく。
だめです、乱されちゃだめです、そう思ってるのに中々スペルが浮かばない。
唇を噛みしめ、何度も頭の中で考えようとしているのに、どうしたらいいかわからない。
その時、肩に優しい温もりが伝わって来た。
クロエだ。
こんな時だって、クロエは私を支えてくれる。
……やっぱり、私はお荷物だ。
「私の……私の長所って…なんですか?
私に長所なんてないです!私は誰にも好かれないし、友達だっていません!
クロエはなんでそんなに優しいのですか!?
お荷物だって思ってくれる方が楽です!!」
そう言いきった所で再び弟月さんの方へと視線を向ける。
「私は一人でも闘えます!!証明してみせます!!
ハリケーンは砂煙を巻き上げる、そしてその世界におじいさんたちを閉じ込めます!
嵐が目隠し、目を開くとあいたたたです!
そして、相手の攻撃は今から全て私が受け止めます、お荷物になんてなりません!!」
クロエは優しい言葉をかけてくれたのに、私は彼女を裏切った。
私はこんなに性格も悪くて、人とうまくコミュニケーションも取れなくて…クラスでも浮いた存在なのも、自分でちゃんとわかってます。
だったらみんな冷たくしてくれたらいいんです。
期待してしまう優しさなんて、いりません…。
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【弟月太一】
やはり、このバトルは絆が大切なようだ。
彼女達の絆が断裂した今、この砂嵐は痛くも痒くもない。
目を開けていてもなんともない位だ。
「だからお前は弱いんだ。
一人では何も出来ない愚か者がいきがって一人になっても矢張り何も生み出さない。
執行者の役割も分かって無い、このゲームの真髄を理解していない。
そんなものに俺達を傷つけれる筈が無い。
独りよがりの代償は犠牲者に全て返る。」
そう言うと後ろのクロエに一気に縄が巻き付いた。
俺の突くところは間違っていなかったようだ。
……が、俺は思わず、視線をそらした。
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【Chloe Barnes】
犠牲者は攻撃はできません。
防御も執行者があって初めて成り立ちます。
ですので、私の体には一気に赤い縄が巻きつきました。
先程道着が破けてしまったことも有り、更に胸が強調されてしまい私は片手で両胸を隠した。
そして完全に私との絆を断ち切ってしまったりっちゃんへと背後から抱きつく。
胸が彼女の背中に触れる。
調度りっちゃんで胸は隠れたのでそのまま膝を付きながら両手で彼女を優しく抱いた。
「私とりっちゃんの絆はこの程度?
私はりっちゃんだからパートナーに選んだの。
そんな私の言葉より、敵である弟月さんの言葉を信じるの?
りっちゃんのお友達は私だけでいいの。
私もりっちゃん意外のお友達はいらないわ。
貴方を見たときね、私、とっても嬉しかったのよ。
やっと、パートナーに巡り合えったって。」
届かないかもしれない。
でも、私には伝えることしかできないから。
そして、優しい手つきでりっちゃんの体をこちらへと向け向かいあう形にして微笑んだ。
-----------------------------------------------------------------------
【法花里津】
おかしいです。
まったく、全然効いてない。
私に当たるはずだった攻撃も、クロエに当たってしまった。
こんなのおかしい、こんなことになる予定なんて私の中にはなかった。
身体が恐怖で震えてくる。
でも、クロエにはもう頼れない。
一人で、一人でがんばらないと――――。
自分を律し、次のスペルを口にしようとした時だった。
やわらかく大きな身体が、私の小さく震えた身体を包み込む。
その感覚に自然と涙が溢れた。
あったかいです……。
やっぱりクロエだった。
優しく諭すような言葉が、私の耳に落ちてくる。
まるで母親の温もりのようで、懐かしいような、安心するような。
私がどんなに迷っても、裏切っても、多分クロエはこうやって私を支えてくれる。
私が変われないように、クロエも変わらないんだ、ずっと。
弟月さんの言葉より、クロエの言葉の方が私にとって何万倍も正しいとわかっていたのに。
「ひぐっ、…クロ、エぇ……ごめんなひゃい……」
クロエの方へと向いた私の顔は、多分ぐちゃぐちゃだったと思う。
優しく微笑む彼女に強く抱き着くと、涙を拭う。
彼女に素直に謝れたのは、これが初めてだった。
もう大丈夫、惑わされない。
最後にクロエは頭を撫でてくれた。
笑うのは得意じゃないから、ひきつった笑顔をクロエへと送ると彼女の身体を隠すように弟月の方へと向く。
「もう貴方の言葉には揺らぎません…。
それより後ろの男の心配してあげたらどうですか?
男でみっともない恰好を晒されてますよ!!変態ですね!!」
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【夏岡陣太郎】
熱い奴等だな。
思わず涙を目尻に溜めながら、太一の後ろで頷き倒していた。
「やっぱ絆って大事だ!心があったまる!!
俺らも熱く行こうぜ!太一!!」
一部始終を見守りながらそう太一に言葉をかけたところで、法花の言葉が飛んで来た。
みっともない恰好、変態、と言われ、今まで窮屈だなぐらいでしか認識していなかった自分の拘束を見下ろす。
なんかこう、下半身の大事な部分が強調されている…。
もちろんクロエも同様の縛り方だ。
…縛り方?……あ、これ亀甲縛りってやつ……?
そう認識した所でなんだか物凄く恥ずかしくなってくる。
「やばい、超恥ずかしくなってきたんだけど!太一絶対こっち見んなよ!!見たら絶交だかんな!!」
慌ててそう叫びながら身体をわずかに丸くする。
「……少女達の絆は太く切れない糸で繋がりました。
けれどそちらはどうでしょう?
夏岡おじいさんの身体は自由が無くなって行く、それは二人の絆が切れるからです。
木々たちはそんな可哀想な二人を見ていました。
こうなったら二人を引き裂いてあげよう。
夏岡おじいさんを長い枝を巻き付け釣り上げて、更に縛り上げるのです!」
恥ずかしがっている暇などなかった、辺りに法花のスペルが響き渡る。
そして、俺の周りにムクムクとデカイ木が生え始めていった。
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【弟月太一】
正直熱くなんてなりたくない。
俺達の絆を言葉で表せば腐れ縁というやつだろう。
ただ、この絆は強固なものだと俺は信じている。
被害の状況を把握しておこうかと陣を振り返ろうとした瞬間、後ろを向くなと言われた。
俺達は男同士だ。
流石に目の前のクロエを見るには抵抗があるが陣が縛られている姿なんて見てもなんとも思わない。
いや、見たくない。
しかし、見るなと言われてるものを見ると絆に亀裂が入る。
それは分かっている事実だ。
「陣、それじゃあ、今、どこまで縛られてるか事細かく説明しろ。
そうじゃなきゃ見る。」
それだけ告げると俺は法花へと視線を向けた。
このまま押し切るのは無理そうだがやれるところまではやってやろう。
「陣は縛られるかもしれないが、ダメージとしては蓄積されない。
それは彼を守る一枚の布が彼を包み込むから。
その上から巻きつかれても、それは視覚だけ、体までは届かない。
無駄にはやした木からはトゲが生まれる。
たとえ強固に絆が繋がってもお前が弱いことには違いない。
そのトゲは、千となり、お前たちを突き刺す。」
この時、俺はこのスペルは間違いだったとはまだ気付いていなかった。
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【夏岡陣太郎】
「状況……!?えっと…なんか、えっと……どう説明していいのかわかんねーよ!」
寧ろ事細かく説明する方が嫌だ。
股間が強調されるように縄が巻き付いて、それが上半身にも差し掛かって来ている。
と言えばいいのか?
言えるわけねーし!どんな羞恥プレイだよ!!
太一のスペルのおかげでマントが守ってくれた。
マントに巻かれたまま釣り上げられてしまったが、身体を縛る縄は増えてはいなかった。
まぁ…なんかミノムシみたいになってるのはヤだけど。
ぶらぶらと揺れていると、恵芭守側がスペルを唱えてきた。
「大丈夫、もう私は弱くないです。
ううん、弱くたっていいんです……クロエがいるから!!
……千のトゲはそんな私たちの絆を断ち切ることはできない。
逆風が巻き起こると、そのトゲ達は意思を持ちぶら下がっている夏岡おじいさんの元へと飛んで行きます。
その動きは予測何てできないです。
どんなに硬くて分厚い物だって切り裂くことができます!
包まれた風呂敷ごと切り裂いて、もっと夏岡おじいさんを甚振るでしょう!!」
そのスペルの通り、針は動きを変え俺の方へと飛んで来た。
一定の動きではなく、それは生き物みたいに動いている。
あれだよな、俺でも能力使えるならマント硬くしちゃえばいいんじゃないか?
こういう時なんか言わないといけないんだっけ…。
「えーっと…俺のマントは切り裂かれない!だって風呂敷じゃねーもん!!」
大声でそう叫ぶと、針は一瞬止まったように見えた。
成功した…?
そう思い気が緩んだ瞬間だった。
針は再び動き始め、俺の身体をマントごと切り裂いていく。
痛い、痛いってこれ!!
スペル間違った?ダメだった!?
「ッぐ……ぅ…!!俺の、マントが……」
その針はマントを破り、俺の身体にも到達する。
服は破れ、べろんと捲れた赤いマントから俺の身体が露出した。
もちろん縄は範囲を広げ、上半身縛り上げている状態だ。
大事な部分も乳首も痛い……辛い……。
「恥ずかしい……」
俺はぶら下がったまま、力無く頭を垂らした。
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【弟月太一】
「言えないなら見るが、いいか?」
どうやら敵は一気に絆を復活させたようだ。
しかし、こちらはどうだ。
どうやら、陣の集中力が切れてきているようだ。
そうすると俺のスペルの威力も半減する。
クロエが法花を後ろから守るかのように両肩に手を置いている。
そのおかげで調度露出している部分が隠れているので有り難いが。
残念ながら俺のスペルは届かなかったようだ。
そして、陣が勝手に口走ったスペルは全く発動しなかった様子に片手で頭を抱えた。
「陣!いい加減に――――ッ!!!!???」
堪忍袋の緒が切れたように勢いよく振り返った先の陣はなんともいやらしい格好をしていた。
まるでアダルトビデオの様な。
そして、何をかくそう、あの陣が恥ずかしがっている!!!
俺は色んな意味で混乱してしまい次のスペルが紡げないまま前を向いた。
勿論陣が拘束、というものに弱いだろうということは分かっていたが。
それ以上に俺の心は彼を見てショックを受けてしまったようだ。
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【法花里津】
どうやらかなりスペルは効いているようです。
二人の精神バランスは完璧に崩れています。
そして、弟月さんは夏岡さんのあられもない姿を見てかなり動揺しているのか、このターンを放棄した、とみなしてもいいでしょう。
とっておきのスペルで一気に片をつけます!!
「二人の絆は完璧に切れました!!
それは私たちの勝利を意味しています!!
地面は大きなお風呂になる。
そして、一人になったミノムシはそのお風呂へと落ち、空から落ちて来たたくさんのひよこさん達に埋もれてしまう!!」
クロエが肩に添えた手に手を添え、ぐっと握りしめる。
私のスペル通りに、地面は波立ち大きなお風呂になった。
そこへ釣るされた夏岡さんが落ち、すぐさま空からひよこさんが降ってくる。
大きな水しぶきを上げながら、夏岡さんはひよこさんに埋もれてしまった。
私のスペルはちょっと変だけど、これが本当の私。
こんな私でも、親友だと言ってくれる人が、クロエがいる。
そう、これでいいんです。
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【弟月太一】
めちゃくちゃなスペルに頭が回らない。
アヒルで窒息死させるつもりなのか。
駄目だ、このままじゃ色々な意味で駄目だ。
俺は仕方なく深く息を吸いとった。
「離脱。
このゲームからの離脱。
相手に勝利を与えることと引き換えにこのゲームより離脱する。
俺達には絆より大切なモノがあるから。」
流石に、これ以上陣を拘束する訳にはいかないからな。
とは、いっても、まさかこんな拘束の仕方があるとは予想外だった。
それでも時間稼ぎは出来た方か。
他のメンバーのファースト、セカンドの疲れが少しでも無くなっていればいいんだが。
歯切れの悪い、負け方だな、と、思いながら俺は陣地に返った。
そうすると陣の服は元に戻っていたが矢張り縄はそのままだった。
しかし、その辺りは抜け目なく日当瀬が駆け寄っていたのでホッと息を吐いた。
■Mission No70.「スペル戦争(中堅対決)」
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